記事のポイント
- 日本だけでなく世界各国で、地球温暖化の影響が顕著に表れてきている
- 異常気象はもはや「一過性の自然災害」だけでは済まされない
- 企業は、気候リスクを把握し、備えを盤石にする必要がある
日本だけでなく世界各国で、地球温暖化の影響が顕著に実感するようになった。異常気象はもはや、「一過性の自然災害」だけでは済まされない影響を各地に与えている。極端な降水や、世界の異常気象は、自社のサプライチェーンにも甚大な影響をもたらすと考え、企業は気候リスクを把握し、そこへの備えを盤石にする必要がある。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

■気候の異変は、身近なところでも如実に
人と会うたびに「毎日暑いですね」が普通の挨拶になっています。
そんな中、私が衝撃を受けたのが、京都市内のあるパン屋さんが6月半ばで店を閉じたことです。理由は、気温の上昇です。
このお店はクロワッサンで人気だったのですが、ここ数年、夏の気温が高くなりすぎて、いくら冷房を効かせても室温の管理が難しくなり、繊細な生地づくりが思うようにできなくなったのだそうです。 クロワッサンはバターと生地の層をいくつも折り重ねるので、温度管理が命です。室温が高すぎるとバターが溶け、サクサクとした食感も、芳醇な香りも出なくなってしまうのです。
店主の方も長年工夫を重ねてこられたようですが、ついに「京都ではもう理想のクロワッサンを焼けない」と判断、北海道への移転を決めたのです。品質に強いこだわりを持つからこその苦渋の決断だったのでしょう。気候変動の影響が、まさかこんなかたちで日常の営みに現れるとは、私も想像していませんでした。
■2025年も再び「1.5℃超」となる可能性が高い
今年も40℃を超える気温を記録した地域が出て、各地で熱中症による救急搬送が相次いでいます。
欧州の気候モニタリング機関であるコペルニクス気候変動サービス(C3S)の観測によれば、2025年前半の気温は、史上最高だった昨年2024年ほどではないものの、それについで高かった2023年よりもやや高い水準で推移しています。
つまり、今年も依然として非常に高温な年であり、年間を通じての地球平均気温が再び、産業革命前の平均気温に比べて1.5℃高い水準に達する可能性が高まっています。
世界気象機関(WMO)が5月に発表した「2025-2029年の気候予測」では、今後5年間のうち少なくとも1年が再び1.5℃を超える確率は86%とされ、5年平均で1.5℃を超える可能性も70%です。
地球温暖化を産業革命前から「1.5℃」以内に抑えることは、気候変動の最悪の影響を回避するために国際社会が合意した目標です。 単年で1.5℃を超えたからといってパリ協定がただちに破綻するわけではありませんが、昨年2024年の世界平均気温はついに1.55℃に達し、もし今年も1.5℃を超えることになれば、「例外」が「常態」になりつつあることを強く示すことになります。
■アジア周辺の海面水温は過去最高に
WMOは6月23日に「アジアの気候の現状2024(State of the Climate in Asia 2024)」も発表しました。
それによると、アジアでは地球平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでおり、とりわけ海洋熱波の影響が顕著です。 2024年には観測史上最大規模の海域が熱波に襲われ、アジア周辺の海面水温は10年あたり0.24℃というペースで上昇し、過去最高を記録しました。これは、台風や豪雨の強度・頻度の増加、沿岸地域での高潮や洪水リスクの高まりにも直結します。
もちろん異常気象はアジアだけでなく、世界中で進行しています。
■米国では猛暑が電力価格の急騰に発展も
たとえばアメリカ東部では、6月24日にボストンで38℃超を記録しました。ふだんは真夏でも28℃程度という地域です。
その結果、電力は深刻な需給逼迫に陥り、ピーク需要時には、ボストンを含むニューイングランド地域のスポット卸電力価格が通常の3倍以上にあたる1500ドル(約22万円)/MWhまで跳ね上がりました。
さらに、ニューヨーク市では2400ドル(約35万円)、ロングアイランドではなんと7000ドル(約102万円)/MWhを超えるという異常事態に発展したのです(ロイター)。これは通常の100倍近い水準であり、ブラックアウト寸前の緊急価格です。
こうした出来事は、気候変動がもたらすのは単なる「暑さ」ではなく、経済・社会インフラへの連鎖的影響であることを示しています。猛暑による電力価格の急騰は企業の運営コストに直結し、収益性や事業継続性にも波及します。
■異常気象はもはや「一過性の自然災害」ではない
日本でも、単なる気温上昇以上に注意すべきは「極端な降水」と「サプライチェーンの混乱」です。
線状降水帯による豪雨が頻発し、数時間で都市の機能が停止するケースが増えています。こうした気象災害は工場の操業停止や物流の寸断を引き起こし、経済活動に重大な影響を与えます。
そして日本の産業構造は、アジア諸国やオーストラリア、アメリカなどの地域に大きく依存しています。 これらの地域では、洪水や干ばつ、熱波などの気候リスクが深刻化しており、農産物や電子部品などの供給が不安定になる懸念が高まっています。こうした現象は、もはや「一過性の自然災害」ではなく、構造的なリスクとして企業の中核的なマネジメント対象に組み込むべき問題です。
■気候リスクを踏まえた実効性のある対策が必要に
最近では、大企業のみならず、中堅企業や地域密着型の企業においても、気候リスクに対する意識が高まりつつあります。
背景には取引先や金融機関からの要請もありますが、自社のサプライチェーンや販売現場で実際に問題が生じてきたことに気づきはじめたのではないでしょうか。
今年の夏も昨年と同様に、あるいはそれ以上に「異常」が日常となる年になるかもしれません。
しかしそれは同時に、私たちが「気候の転換点」に立っていることをはっきりと示す警告です。「今日も暑いですね」と言葉を交わすだけでは、もはや済まされません。 企業は、自らの未来を守るために、そして持続可能な社会の一翼を担うために、これまでよりさらに実効性のある具体的な対策を進める必要があります。準備が間に合わず困るのは、その企業自身なのですから。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)518(2025年6月26日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」は、こちらからもお読みいただけます。