王子グループ、育てた森林の価値を最大化し成長戦略に

記事のポイント


  1. サステナ経営塾に王子ホールディングスのマーケティング担当者が登壇した
  2. 製紙メーカーとして、サステナブルなものづくりにこだわる
  3. 自社の森林資源を成長戦略にどうつなげていくのか語った

オルタナは7月16日、サステナ経営塾21期第4回を開いた。第2講には、王子ホールディングスのコーポレートマーケティングを担う王子マネジメントオフィスの三井健一・グループマーケティング本部マーケティング企画部部長が登壇した。サステナブルなものづくりにこだわる製紙メーカーとして、自社の森林資源を成長戦略にどうつなげていくのか語った。講義レポートの全文は下記の通り。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)

王子グループの環境戦略を話す三井・マーケティング企画部長

王子マネジメントオフィスは聞き慣れない会社名かと思いますが、王子ホールディングスの中のコーポレートマーケティングを担っている部門です。人事や財務などの部門の中に、M&Aや事業開発を担う部門として、4月に組織改編があったところです。

我々王子グループの前身は王子製紙でして、製紙業というのはもともとサステナブルに根ざした製造業です。我々マーケティングにもこのサステナブルの考え方を適用して、日々いろいろ活動をしています。

王子グループの創業は1873年で約150年前になります。国内に104拠点、世界23カ国に110拠点ほどあり、従業員は3万8000人です。2024年度の決算発表でも海外売上高比率は約40%を超えており、海外ではアジア、特に東南アジアから拠点づくりが始まっています。最近はヨーロッパへも、脱プラスチックの機運が高まっていることから、拠点づくりも進めています。 ‎

王子グループの歴史ですが、1873年に渋沢栄一によって起こされた抄紙会社が起源です。
その後、東京都北区の王子で紙の生産を開始しています。現在も王子には桜の名所ですが、公園内に紙の博物館があります。

その後、木材パルプの生産、新聞用紙、ゴール(コート紙)、ティッシュ・トイレットロールのような家庭用紙、パッケージングのような板紙(厚紙)など、順次生産品種を拡大していきました。

■森林資源を持続的な森林経営に活かす

我々の成長戦略の起点は森林です。サステナブルな森林資源の維持管理によって持続的に森林経営をしていくことで、昨今言われている循環型サーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブ、カーボンニュートラルといったサステナビリティへの貢献ができます。

一方で、紙需要は減少しています。そういった中で、今後の成長の両輪として「サステナブルパッケージ」と「木質バイオビジネス」を事業の核に据えて進めていこうという成長戦略を設定しています。 ‎

王子グループのパーパスは「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」ということです。これを端的に表したミッションとして「森を育て、森を活かす」を一番上に掲げています。各社員がこれを認識した上で浸透させているという背景があります。

我々は森林資源なくしては事業運営ができません。今後の成長の核であるパッケージングやバイオビジネスといったグリーンイノベーションに資する新領域を考えるにしても、祖業である紙製造を知らずしてこれは語れません。

紙は西暦105年に中国で製造方法が確立されました。ペーパーの語源となったパピルスはエジプトで紀元前3000年頃からありますが、当時のパピルスは草や樹皮を編み込んで作ったもので、今の紙の定義からすると西暦105年のツァイ・ルンが発明したものが紙の起源と言われています。

木の皮を剥いだり古着のぼろ切れのようなものを叩いたりして、水の中に灰を入れて煮ます。和紙の里などで体験する和紙をすくるのと同じ要領で紙にすくわけです。これを1枚1枚重ねて、上から板を置いて石を置いて重しを載せて絞ります。その上で1枚1枚はがして、板に貼り付けて乾かします。これが紙の製造工程で、現在の近代製紙の技術も基本原理は全く同じです。 ‎

紙を作るための原料は木材ですが、これを製紙工場の蒸解釜(ダイジェスター)に詰めて、アルカリの薬品を入れて高圧で煮ます。ここから取り出した木材の繊維を多段の漂白タワーで白くさらし上げ、最終的に白いパルプにします。

この時のポイントは、木材には3つの主成分があり、50%がセルロース、25%がヘミセルロース、残りの25%がリグニンということです。実際パルプになるのはセルロースと一部のヘミセルロースで、収率は約50%です。

抽出されたヘミセルロースの主成分とリグニンは黒い液として抽出され、この油状の成分は濃縮されて製紙工場内のボイラーとジェネレーターで化石由来の燃料の代替として使われます。これはカーボンオフセットになるので、紙素材がカーボンネガティブで非常に負荷が低いと言われる由来の一つです。

その後、パルプを水に溶かして薄い懸濁液にし、高速回転するワイヤー網の上に噴き出してシート状にします。それをプレスパートという2つのニップされるロールの間を通して絞った上で、金属のシリンダーに何回も巻きつけて乾燥させて巻き取ります。

先ほど説明したように、たたいて溶かして漉いて絞って乾かすという工程は、2000年以上同じ作り方をしています。

このように、我々の創業の紙づくりは、原料からプロセスまでサステナブルが根本にあります。そのため、外部環境の変化によって紙需要が減り、次の事業展開や新事業を考える上でも、比較的親和性があって考えやすいのですが、その根底にあるのは森林資源であるということです。

■民間企業としては最大の森林を持つ
■森林資源の経済価値は年間約5500億円に
■欧州の規制に対応するためM&Aで新技術獲得
■最終的な目標はパッケージング素材のリサイクル
■医薬品や半導体、SAF燃料などへの応用も
■ムーミンの柔らかな世界観で森の価値を伝える

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。