記事のポイント
- 肥後銀行が開発したCO2排出量算定システム「炭削くん」が好調だ
- 競合商品より1桁安い、月額2千円台の価格設定が魅力となっている
- 他の地銀との連携などで全国に広げ、スコープ3開示を下支えする
肥後銀行が開発したCO2排出量算定システム「炭削(たんさく)くん」が好調だ。2024年1月末にサービスを開始し、2025年5月末で4500社が当システムを導入した。利用料金は初年度無料でその後も月額2200円と、破格の価格設定で、企業が排出量算定に取り組む際のハードルを下げた。熊本発で全国に広げ、中小零細企業の脱炭素経営の支援や、バリューチェーン全体の排出量(スコープ3)開示の下支えを図る。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

■排出量算定のハードル下げる
肥後銀行は2024年1月、顧客のCO2排出量算定・可視化を支援する「Zero-Carbon-System(ゼロカーボンシステム、通称:炭削くん)」のサービスを開始した。
電気、エネルギー等の各種使用量のデータを入力するだけで、企業活動全体のCO2排出量(スコープ1,2,3)を算定し可視化する。スコープ3まで含め、バリューチェーン全体で排出量が多い「ホットスポット」も浮き彫りにする。排出量の削減目標の設定や、その進捗管理も可能だ。
料金は、利用開始から1年間は無料で、2年目以降は企業規模を問わず、月額2200円(税込、5ユーザーまで)だ。この破格の価格設定が、排出量算定に取り組む企業のハードルを下げた。競合商品よりも1桁安い。


2024年1月末にサービスを開始し、同年5月には熊本県内企業を中心に1000社が導入した。2025年8月末時点で導入した企業数は4700社を超えた。
肥後銀行に口座を開設していなくてもサービスを利用できる。2024年11月には福岡銀行と、2025年5月には東北銀行、同7月には鹿児島銀行とも連携し、熊本から全国へとサービスを広げる。
■スコープ3開示の強い味方に
熊本県には輸送機械、電子部品・デバイス、半導体、食料品など、出荷額が全国トップクラスの製造業が集積する。東京エレクトロンや、ソニーセミコンダクタソリューションズグループのほか、2024年には半導体受託製造世界最⼤⼿の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本に進出した。
排出量に関しては、スコープ3排出量も含めたサステナビリティ情報開示の法制度化が世界的に進む。それに伴って、大企業のサプライチェーンを担う地域の中小企業も、取引先から排出量の情報開示や削減を求められるケースが増えてきた。
しかし、「CO2排出量の算定を始めたいがやり方がよくわからない」「排出量を算定したいがシステムの利用料金が高い」「エクセルで算定しているが、膨大なデータの入力や排出係数の更新が面倒で使いづらい」といった課題に直面する企業も多い。
肥後銀行は、こうした地域の企業から聞こえてきた課題を解決するため、独自で「炭削くん」の開発を進めてきた。
■「『炭削くん』では儲けない」
しかし肥後銀行経営企画部サステナビリティ推進室の末次矩子(のりこ)氏は、同行が自らシステムを開発しながらも、「『炭削くん』で収益を上げようとは考えていない」と、言い切る。
同行では、「地域課題の解決に資するグループを目指す」という方針の下、2018年にサステナビリティ推進室を設置し、2020年からSDGsコンサルティングを開始した。
脱炭素経営に取り組む企業向けのコンサルティングに注力し、今では「炭削くん」を導入した顧客に伴走して、可視化された排出量をもとに脱炭素経営を支援する。
■サステナ関連資格で行員の知識武装図る
顧客を伴走支援するのに欠かせないのが、支援する側の人材育成だ。同行では、脱炭素経営やSDGsに関するコンサルティングができる人材の育成にも注力し、早くから、サステナビリティ関連資格の取得を積極的に奨励してきた。
これまで推奨してきた「サステナブル経営/CSR検定3級」「「サステナブル経営/CSR検定2級」「SDGs・ESG金融検定」「サステナビリティ・オフィサー検定」は、ほとんどの行員が受験済みであり、もはや行内の「標準スキル」の位置づけだ。新たに入社する行員に備えてもらう知識として、引き続き奨励しつつも、現在は、2023年から始まった環境省認定の「脱炭素アドバイザー」資格の取得をKPIに掲げて推奨する。
「『炭削くん』は現状、9割以上が熊本県内の中小企業だ。しかしサプライヤーや地域全体で脱炭素を目指す上場企業や自治体にも広がってきた。これをもっと全国へと広げていきたい」と末次氏は意気込む。