オムロンは脱炭素、サントリーは水: 知見を無償で提供へ

記事のポイント


  1. 脱炭素戦略など自社の知見やノウハウを無償で提供する企業が増えてきた
  2. オムロンはGHG削減計画を、サントリーは水リスクの特定を支援する
  3. ESGの対応状況を無償で可視化し、有償サービスの販売につなげる狙いだ

脱炭素戦略など自社で培った知見やノウハウを無償で提供する企業が増えてきた。オムロンは温室効果ガス(GHG)削減計画を、サントリーホールディングスは水リスクの特定を支援する。脱炭素技術が確立していない製造業などを対象に、ESGの対応状況を無償で可視化し、ソリューションサービスを有償で販売する。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)

オムロンによるカーボンニュートラル診断の結果報告書サンプル

オムロンは2025年8月、製造業を対象にした「カーボンニュートラル診断」を始めた。カーボンニュートラルに向けた自社の実態を可視化し、戦略的な施策立案を支援するものだ。ガバナンス・戦略・再生可能エネルギー導入など、カーボンニュートラルに向けた各施策に関する約50の設問に答えることで、現状の取り組み具合を数値化した。他社比較も行える。

この診断の対象は、日本国内に生産拠点を持つ製造業。100社限定だが、規模は問わない。診断は無料で受けることができる。11月まで受け付けている。

金融庁は2027年3月期からプライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業を対象にSSBJ基準(サステナビリティ開示基準)に基づいた開示を義務化する見通しだ。義務化の適用範囲は今後広げていく。

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無料で脱炭素戦略の策定を後押し

特に気候変動関連の開示では、戦略や指標、目標設定などが必須項目とされており、製造業はその対象となることが想定される。

脱炭素技術がまだ十分に確立していない製造業にとっては、成果の出るカーボンニュートラルの施策実行は喫緊の課題だ。

そこでオムロンでは、この状況を商機と見て、無料の診断サービスを始め、サービスの拡充とPRの強化を図っている。無料診断の受け付けは8月から開始し、現在までに診断完了済みと回答中の企業が、増えてきたという。

診断の分析結果をフィードバックし、対象企業の課題について提言を行う。ここまでは無償だ。

有償サービスとして、工場単位のエネルギー診断や具体的な削減ソリューションの提案を行い、カーボンニュートラルの事業化を推進する。

オムロンは、長期ビジョン「Shaping the Future(シェーピング・ザ・フューチャー)2030」で、事業を通じて解決すべき社会的課題を示した。その一つに「カーボンニュートラルの実現」を掲げた。

こうした戦略の一環として、2025年度にカーボンニュートラルソリューション事業を立ち上げた。

同社がこれまでに蓄積した脱炭素に関する知見やノウハウを日本の製造業のカーボンニュートラルの推進に役立てる。

サントリーは水リスクの予防サービス

サントリーホールディングスも自社が培ったサステナビリティに関する知見を無償で提供する。同社は、東大などと組み、世界初の水不足リスクを可視化するツールを開発した。

水リスクをツールで可視化できる

社会に必要な水の量や供給量を把握して、不足する用途やその量を推測することができる。このツールを活用することで水不足が発生しうる地域を特定して対策することが可能になる。

このツールは、Water Security Compass(ウォーター・セキュリティ・コンパス)という名称で、24年夏から無料で公開している。東大が構築した地球全体の水循環をシミュレーションするモデルを活用した。

季節の変化やダムなどのインフラによる水量への影響をシミュレーションに織り込み、世界各地で必要な水の量や供給量を把握できるようにした。水資源がどの用途でどの程度不足するのかを推測し可視化することができる。

さらに、サントリーは4月に自社のノウハウを生かした水リスクの予防サービスを始めたと発表した。予防サービスは、サントリーが1月に立ち上げた新会社Water Scape(ウォータースケープ)が行う。同社が持つ、水に関する科学的知見を生かして、企業向けに用水確保の支援を行う。

具体的には、地下水量の診断やモニタリング、持続可能な用水確保のための投資計画の策定支援などを行う予定だ。

サントリーグループは使った水の量以上に自然に還元する「ウォーター・ポジティブ」を掲げる。すでに国内では「ウォーター・ポジティブ」を達成した。

2050年までに、全世界の自社工場で取水する量以上の水を育むための水源や生態系を保全するという野心的な目標の達成を目指す。

水ストレス地域から取水する企業は約3割に

企業の非財務領域の対応を格付けする非営利組織CDP(本部:英国)は9月、2024 年に水関連の情報開示件数が前年から約2倍増えたことを公表した。

CDPを通して水関連の情報を開示した企業の 27%が水ストレス地域からの取水を報告しており、水資源のひっ迫が企業戦略に影響することを示した。

国連の調査では、2030 年までに世界の淡水需要は供給を40%上回ると推計している。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #水#脱炭素

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