記事のポイント
- 韓国が石炭火力を段階的に廃止し、「脱石炭連盟」に加盟することを表明した
- 「脱石炭連盟」は、60カ国・120団体で構成する世界的な連合だ
- 韓国は2040年までに既存の40基の石炭火力発電所を段階的に廃止する
韓国政府は、ブラジル・ベレンで開催中のCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)で11月17日(日本時間18日)、石炭火力を段階的に廃止し、「脱石炭連盟(PPCA)」へ加盟することを表明した。PPCAは世界60カ国・120団体で構成する、石炭火力発電の段階的な廃止を目指す国際的な枠組みだ。2040年までに既存の40基の石炭火力発電所を廃止する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

韓国は、石炭火力発電設備容量で世界第7位だ。同国は今後、石炭火力発電の新設を中止し、2040年までに既存の40基の石炭火力発電所を段階的に廃止する。残る21基についても2026年中に、閉鎖に向けた計画を策定するという。
韓国の金成煥(キム・ソンファン)気候・エネルギー・環境相は、「石炭からクリーンエネルギーへの転換は、気候変動対策に不可欠であるだけでなく、韓国および他国全体のエネルギー安全保障の強化や企業競争力の向上、数千人の雇用創出にも寄与する」と述べた。
韓国は今月11日、温室効果ガス(GHG)排出量の国別削減目標(NDC)も決議している。2035年までに排出量の53~61%削減(2018年比)を謳ったNDCは、これまでの2030年までに40%削減という目標から大幅な上方修正だ。
韓国の環境NGOソリューション・フォー・アワ・クライメートは、「韓国は石炭のほぼすべてを輸入に依存している。石炭火力の段階的な廃止によって、数十億ドルのエネルギー輸入費の削減につながる」とPPCA加盟を歓迎した。韓国は、中国、インド、日本に次いで、世界第4位の一般炭の輸入国だ。
同NGOは、「韓国企業の経営幹部の99%が化石燃料ベースから再エネベースの電力転換を望んでいる。特にそのうちの92%は10年以内に石炭からの段階的廃止を支持している」と、2025年4月に世界各国で実施された世論調査にも言及した。

(c) Solutions For Our Climate, SFOC
■脱石炭連盟への加盟、広がる
韓国が加盟した「脱石炭連盟(PPCA: Powering Past Coal Alliance))は、石炭火力発電の段階的な廃止を目指す国際的な枠組みだ。2017年11月のCOP23で英国やカナダが主導する形で発足し、現在、60カ国・120の地方自治体・企業等団体で構成する。
なお、日本はG7で唯一、PPCAに加盟していない。
韓国が加わったことでアジアのPPCA加盟国は、シンガポールと韓国の2カ国になった。
17日には、過去に石炭火力発電を保有したことのないバーレーンもPPCAに加盟した。今後も火力発電を建設しないことと、他のPPCA加盟国と連携して、石炭からクリーンエネルギーへの移行を推進すると表明した。
■韓国の電力の3割は石炭火力発電によるもの
■韓国の決定は石炭輸出国の豪州にも衝撃
■韓国の電力の3割は石炭火力発電によるもの
英エネルギーシンクタンクのエンバーによると、2024年、韓国の電力に占める石炭火力発電の比率は30.5%だった。2009年の46.3%からは大きく縮小したが、化石燃料比率は、ガスも合わせて依然6割と高い。
「数年前なら、韓国が石炭火力発電の段階的廃止を表明するとは考えられなかった」とエンバーのリチャード・ブラック政策戦略部長は語る。「しかし、パリ協定から10年で石炭火力発電を3分の1減少させた韓国の現状を踏まえれば、論理的な選択だ」(ブラック部長)
■韓国の決定は石炭輸出国の豪州にも衝撃
石炭輸出国の豪州にとって、韓国は3番目の輸出相手先だ。豪州にとって石炭の最大輸出先は日本で、日本は同国の石炭輸出全体の31.8%(2024年、通関ベース)を占める。
豪コンサルティング会社のリマップ・リサーチ社のジェームズ・ボーエン所長は、「韓国の決定は、アジア・太平洋地域全体に強力なメッセージとなる」とガーディアン紙にコメントした。
ボーエン所長は、「オーストラリアが中長期的に化石燃料輸出に依存し続けるのはリスクが高い」と指摘する。
「韓国の決定を受け、オーストラリアは自国の化石燃料の段階的廃止に向けたタイムフレームを議論すべきだ。そして、近隣諸国のクリーンエネルギーの導入を支援することでリーダーシップを発揮すべきだ」(同)
豪州は「脱石炭連盟」の加盟国ではない。しかし豪政府は、電力に占める再エネ比率を、2024年の42%の水準から2030年までに82%へと引き上げる目標を掲げる。
COP30では、「脱・化石燃料」のロードマップの策定が焦点の一つとなっている。多くの国が、化石燃料からの脱却と再エネの拡大を推し進める中で、今回の韓国政府による発表に際しては、会場が拍手と歓声に包まれたと現地メディアは報じる。いまだ脱石炭、脱化石燃料を明確に政策に織り込めていない日本は、先を越された形だ。



