続く現代の奴隷労働、第4回「国連ビジネスと人権フォーラム」報告――下田屋毅の欧州CSR最前線(48)

条約締結による法制化への動き
今回のフォーラムで、2014年に続き注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての第26回国連人権理事会決議26/9についてである。

条約締結による法制化を提起したエクアドルから、常任委員のマリア・フェルナンダ、エスピノーサ氏がスピーチした。

彼女は、この条約による法規制化の動きにについて「既にこの条約による法規制化へのプロセスは始まっており、国際的な関心を得ている。大学関係者、市民団体、NGOが協調し、『Treay Alliance』を結成、1000を超える世界のNGO、そして様々な国々がこのプロセスに賛同し取り組んでいる」と話し、2015年7月に開催された国連人権理事会の作業部会での議論についても説明した。

またディスカッションも活発に行われ、その上で「条約による法制化には時間がかかる。その法制化の動きを進めていくとともに、企業は指導原則の導入を進め、各国では国家行動計画を所持し、ビジネスと人権の課題に対して取り組みを行っていく必要がある」と強調された。

現代奴隷制を含む強制労働、人身取引排除へ向けた取り組み
人身取引、強制労働を排除するための取り組みに関する報告があった。米国からは、それらを規制する「米国連邦調達規則」の改訂、英国政府からは「現代奴隷法2015」について説明があった。発展途上国だけでなく、先進国においても現代における奴隷労働が発生していることや、サプライチェーン上での奴隷労働の事例などの発表があり、議論がなされた。

人権NGOベリテのフィリップ・ハンター氏は、「規制については、これら人権について配慮を推進するものであり、最初の段階では企業を後押しするので望ましいが、企業にはこれらの規制が何を求めているのか考えて行動していただきたい。例えば、カリフォルニア州サプライチェーン透明法や英国現代奴隷法では報告することが求められているが、報告することだけでなく、その背後にあることを確認することが求められている。」と述べ、法令順守を超えた部分で企業が考え行動を起こす必要があることを訴えた。

先住民族の訴え
2015年も、南米、中南米、そして東南アジアから、企業による人権侵害を受けた先住民族の方々が、その状況を伝えるために民族衣装を着てフォーラムに参加をしていた。政府や企業が事前の告知による同意なしに勝手にプロジェクトを実施し、多くの先住民族は、そのプロジェクトの影響で強制立退きや避難を余儀なくさせられている。今まで先住民族のコミュニティは、抗議活動などを行うと共に、対話、交渉、調停機構を通じて、政府や企業と相対してきた。

しかし残念ながら、国や企業は、先住民族のコミュニティの抵抗を阻止するために、大規模で残忍な弾圧も行われている現状がある。そのような現状を伝える一つの手段として、2日目の開会式が始まる直前に、先住民族の方が中央の通路を小さな列を作って会場中に響き渡るように先住民族の唄を歌い、そしてステージ前に整列し人権侵害について訴える一幕もあった。

また、閉会式においては、会場から先住民族の代表が2014年の第3回ビジネスと人権フォーラムで実施された「先住民族の幹部会議宣言」を再び述べ、一年経過した後も何も措置も取られていないことに大きな懸念を表明し実施することを促すとともに、今後開催されるビジネスと人権フォーラムにおいて、先住民族が人権侵害を受けている状況を発信できるように、先住民族がより多く発言の場を確保することができるように提案がなされた。

メガ・スポーツ・イベントに関連する人権侵害

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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