「責任ある鉱物調達」は実現できるか、脱炭素も人権保護も

記事のポイント


  1. 社会全体で脱炭素を推し進めるには責任ある鉱物調達が欠かせない
  2. 一方、環境と人権を守りながら、脱炭素も実現することはできるのか
  3. 持続可能な鉱物調達を目指すためのロードマップを提案する

社会全体で脱炭素を推し進めるには「責任ある鉱物調達」が欠かせない。だが、環境と人権を守りながら、脱炭素も実現するには、政府、企業、市民社会が一体となって取り組むことが重要だ。持続可能な鉱物調達を目指すためのロードマップを提案する。(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン・気候変動・エネルギー担当=塩畑真里子)

温室効果ガス排出削減のために、内燃機関からクリーンエネルギーへの転換が世界各地で急速に進んでいる。この歴史的な転換にあたって必要になるのがいわゆる「移行鉱物」だ。具体的には、リチウム、コバルト、ニッケル、銅、マンガンのほかレアアースが含まれる。

日本ではこれらの鉱物資源をめぐって、特定国への極端な依存を避けるべきだという経済的安全保障の観点からの議論と、移行鉱物はその採掘過程で深刻な問題を引き起こしているという環境・人権的観点からの議論がある。

鉱物資源掘削による水や土壌の汚染など環境への影響は、本来、気温上昇を食い止めるはずの脱炭素の推進が新たな問題を引き起こしてしまっているのではないかという懸念である。

環境と人権を守りつつ、脱炭素を実現していくことは果たして可能なのだろうか。これは気候変動や環境に関心がある人であれば当然疑問に感じることであろう。

この記事では、脱炭素と環境・人権保護の両立のための道筋はある、ということを提示したい。

■リチウム需要量、2040年に4倍以上に拡大へ

そもそも脱炭素と環境・人権の保護は相互排他的であるべきではない。そのためには、いかにして鉱物資源の掘削を減らしていくかという観点と、それでも必要な量だけの鉱物を確保するにあたって、いかに環境保全と人権保護を担保するかという観点が重要になる。

実現のためには、一刻も早く、政府、企業、市民が一丸となって持続的な脱炭素に真剣に取り組む必要がある。

世界で今後必要とされる移行鉱物の量については、国際エネルギー機関(IEA)を中心に、複数の専門機関が予測値を定期的に出している。

予測にあたっては、経済成長率、人口増加率に加え、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合など脱炭素の進展度、電気自動車(EV)の販売率、バッテリー製造に使われる材料の構成のほか、バッテリー材料のリサイクル率を考慮する必要がある。

現在、IEAのSTEPS(各国で実施されている政策や公表されている目標に基づくエネルギー・システムの予測シナリオ)では、リチウムの需要量は、2024年に205キロトン(kt)であったのが2040年には約4.5倍の928ktに達すると予測されている。

一方、グリーンピースが2026年の3月に公表した報告書では、バッテリーなどのリサイクル率を着実に高め、とりわけ自動車の台数を抑制することによって、2040年のリチウム需要量を半分以下の421ktまで抑えることが可能であることを示している。

現在、バッテリー技術は急速に進歩している。EVでは、従来主流であったニッケル、マンガン、コバルトが主成分の三元系電池からLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)へ移行しつつあり、LFP電池以外にもナトリウム電池など新たな技術開発が進み、それによって必要とされる鉱物の種類も量も増減する。

LFP電池は、正極に鉄とリン酸を使用するリチウムイオン電池であるが、コバルトやニッケルを使用しない。将来的にこのLFP電池がどのようなスピードで普及していくかが問われる。

■自動車の「シェアリング」もカギに

さらに、グリーンピースの予測では、電池材料のリサイクルに加え、乗用車保有台数を抑えることが鉱物の需要そのものを減らすことにより大きな影響を与えるとしている。

そのためには、いかにして公共交通サービスを拡充するか、車を所有することから共有すること(シェアリング)に転換していくかが鍵になる。

このような予測を出したのは、決してグリーンピースが初めてなのではない。

2023年にカリフォルニアのクライメート・コミュニティ・プロジェクトがカリフォルニア州立大学と共同で実施した調査もそうだ。2050年までの米国国内の旅客輸送におけるリチウム需要量を予測したものだ。

シナリオはいくつか設定されたが、このうち最も野心的なシナリオ下では、公共交通の充実や都市の過密化(デンシフィケーション)を通じて車への依存度を下げることで、リチウム需要を最大66%削減することが可能、また、自動車とバッテリーの小型化を図ることで同需要を42%削減できるとしている。

リサイクルも重要であるが、車の保有台数の減少、という根本的な需要削減の方が効果は高い、としている。

現在のライフスタイルをまったく変えずに鉱物需要を減らすということは非常に困難である。車の個人保有を減らし、シェアリングに移行していくためにはまだまだインフラの拡充が必要であるが、例えば20年前に比べて一般市民のシェアリングへの抵抗感は減っているのではないだろうか。

車は保有していても、実際に稼動するのは2〜5%程度で、大半は駐車場に眠っている「遊休資産」である。もちろん、農村部で交通が不便な地域とバスや電車のサービスがある都市部を同列に議論することはできない。そのために、新しい時代の交通政策が求められる。

たとえ鉱物需要が減少したとしても、採掘における環境、人権問題をゼロにすることは難しい。そのためには、なんらかの認証制度が必要だ。

■紛争鉱物を防ぐ「第三者保証制度」も

一時期、「紛争ダイヤモンド」が話題になったことがあるが、2003年にその流通を防ぐための「キンバリープロセス認証制度」が導入された。

鉱物資源に関しては、2006年に労働組合、地域コミュニティ、鉱業企業、購買企業、投資家による「責任ある鉱業保証のためのイニシアチブ(IRMA)」が発足しており、ビジネスの誠実性や社会的責任、環境責任などの原則に沿った基準を持つ第三者保証制度が立ち上げられている。

採掘企業や金融機関のほか、鉱物を大量に購入する自動車会社が加盟しているが、現在、メンバーになっている自動車会社は、メルセデス、フォード、フォルクスワーゲンなど欧米のメーカーに限定されており、日本の大手自動車企業はゼロである。

今年3月に発表された、環境団体のネットワーク「リード・ザ・チャージ」による自動車メーカーの持続的なサプライチェーンの進捗を評価するレポート2026年版で日本のメーカーの点数が総じて低いのも、原材料のトレーサビリティへの注力度が不十分であるためだ。

今後、需要側である自動車会社がその原材料調達にあたって、環境と人権が担保された形で調達された鉱物しか使用しない姿勢を明確に示し、実行していくことが求められる。消費者側もそれを求めることが必要になるだろう。

今年の夏も記録的な猛暑になることがすでに予想されている。温暖化を食い止めるために必要なことは一刻もはやく大気圏への温室効果ガスの排出をとめることだ。

資源採掘を最小限に抑えつつ、交通部門の脱炭素を進めていくためには、政策決定者や企業の野心的な決意と実行が不可欠なのである。

greenpeacejapan

国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

グリーンピースは、世界規模の環境問題に取り組む国際環境NGOです。問題意識を共有し、社会を共に変えるため、政府や企業から資金援助を受けずに独立したキャンペーン活動を展開しています。本部はオランダにあり、世界55カ以上の国と地域で活動し、国内だけでは解決が難しい地球規模で起こる環境問題に、グローバルで連携して取り組んでいます。執筆記事一覧

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。