「志」を求める若者たち(14)--高校生が音楽ビジネスを起業(ブラストビート)

Hungry for Mission 「志」を求める若者たち14

10代が音楽ビジネスに挑戦し、利益で社会貢献する画期的な教育プログラム「ブラストビート」は、アイルランドから始まり、世界で5番目に日本でも始まった。まだ初年度だが、その活動は全国各地へ急速に飛び火している。(聞き手 今一生)=文中敬称略

松浦貴昌(31歳) ブラストビート代表理事(NPO法人申請中)

近藤光伸(17歳) 星槎国際高等学校3年生。「カラーズ」社長

松岡瑞起(17歳) 星槎国際高等学校3年生。「カラーズ」副社長

青柳丈士(27歳) 星槎国際高等学校 専任教諭。立川学習センター・キャリア対策室室長

坂口躍(21歳) 武蔵大学社会学部社会学科3年生。「ココロオドル」社長。「ケニアス・ミュージック」社員

(本誌オルタナ20号P39からの続き)

ブラストビート・松浦代表理事

――ブラストビートを自分の学校に導入したい時はどうすれば良いのでしょうか。

松浦 今作っている運営マニュアルが、日本でのブラストビートのテキストになると思います。ブラストビートは、世界中に若きチェンジメーカーの輪を広げ、活力ある世界を創造していくことを目的として発足した国際的なNPOです。

音楽・マルチメディアを用いた社会起業プログラムの実践を通じて、高校生とブラストビートにかかわる全ての人々の、社会に貢献する心・リーダーシップ・自尊心・協調性を育みます。自立・自律した考え方と思いやりを持ち、多様な価値観と共生し、自ら率先してより良い社会にしていく為の行動を起こせる人材の輩出。それがブラストビートのミッションです。

2校目としてパイロットプログラムを導入した星槎国際高等学校では、まず、立川学習センターの青柳先生に会いました。先生は志のある生徒を集めるため、公募ポスターを作って校内に貼り、めぼしい生徒に声をかけていってくれたんですね。先生自ら声をかけると、10人程度がやりたいと言ってきたそうです。

最初の会合では、ブラストビートの活動を紹介するDVDを見せます。大学生の場合は知り合いの教授筋にお願いします。そこから大学生が自分たちでブラストビートのプロジェクトを作っていけるようにしています。

東京では今秋以降、新たに3校で始めようと思っていますが、同時に全国各地でも並行して進めていきたいと考えています。東京でできる仕組みをそのまま全国にも広げていきたい。全国の高校でブラストビート部を立ち上げたいのです。

さらに、自動的に人が育ち、ブラストビートが継続的に活動できるような仕組みを構築したいと思っています。僕と同じようにメンターとして高校生に教えに行ける人材を大学生のなかから育てていきたいですね。高校生を卒業したら、先輩として後輩の高校生を育てていくという循環を作りたいと思っています。

――松浦さん自身は何度も星槎国際高校へ足を運んだのでしょうか。

松浦 立川だと僕は週1回程度しか行けないので、実際、青柳先生にお願いすることが多かったです。高校生同士で週に1、2回の会議をしてもらい、週1回は、教員も交えた全体会議を行っています。

ブラストビートでは、世の中の固まった発想にとらわれないように配慮しています。大学生の方が「自分にはできない」と思い込んでしまって、発想が小さくなる傾向があるので、高校生の方が発想が豊かかもしれません。

特に、まだ初年度なので、高校生がどこでつまずくかわからないので、あえてプロジェクトの〆切を与えていません。大人が先回りして入れ知恵したりせずに、高校生自身が悩んだり、自分たちで考えたりすることを尊重したいと思います。

青柳 心配される親御さんもいますが、任せてもらっています。

坂口 実際活動をしてみると、ライブハウスが決まっても、当日までにぶつかり合いも起こります。でもその分、お客さんが来てくれるとものすごく感動します。

右から、カラーズ副社長の松岡さんと、社長の近藤さん。ココロオドルで社長を務めた坂口さん

ココロオドルの活動では自分たちの活動を映像として記録し、ドキュメント映像としても見せていきたいと思っています。

僕はココロオドルでは社長だったのですが、ケニアス・ミュージックでは、社員として働いています。今、社長が四苦八苦しているのを見ながら、「ここで社長がこう言ったら僕も発言するのに」とか、「会議に行けなくなると置いて行かれているように感じるんだな」とか、「とにかく社長が明るいことって大事だな」とか、「社長が言うってことにはすごく意味があるんだな」とか、いろいろ見えなかったことが見えるようになりました。

ココロオドルでは、昨年末には今年3月のライブ開催が決まっていたのに、2月にようやくライブ会場や呼びたいアーティストなどの話し合いができ、直前までバタバタしていました。ライブハウスが決まったのは1カ月を切ってから。最後のアーティストが決まったのは当日の4日前。バディという江古田のライブハウスで、キャパは200人くらいでした。

3月19日は4組に出演してもらったのですが、ほとんどの経費は当日のライブの売上から出しました。宣伝費などは事前にスタッフが持ち出し。スポンサーも探していたのですが、会場が決まってから営業を行ったので、残念ながら見つかりませんでした。

バンドを選ぶ基準は、こちらの趣旨に納得してもらえるかどうか。出演した頂いた4組の音楽ジャンルはバラバラでしたが、ブラストビートの活動に共感して頂けました。

本当にギリギリでのお願いだったので、バンドのファンをなかなか動員できず、102人の動員しかできなかったのは、反省点です。

最終的に、ライブ後の交流会の売り上げも含めて30万円近くになり、純利益は9万円。それ以外に2万円以上の寄付金を当日に集めました。

松浦 それだけの利益を出せたのは、大学生たちがライブハウスと会場代の交渉をしたのが大きいです。趣旨を説明したら、かなり割り引いて頂けたんですね。

ケニアス・ミュージックは、ステップアッププログラムとして、大企業にも参加してもらったり、原価計算させたり、Tシャツを作ったりもしていますが、ブラストビートは彼らの利益には全く手を付けません。

ホームページ制作費は会員費用からまかなっています。私自身は自分のマーケティングの会社でお金を稼いでいるので、ブラストビートには時間だけを提供しています。

生徒の活動を見守る青柳先生

――高校生の「カラーズ」は、これからが正念場ですね。

松岡 みんなとぶつかることもあるけど、すごく楽しいです。前は、人と話すときに目を見て話すことを意識していなかったけれど、目を合わせて話をすると言葉や気持ちが通じるということがわかりました。

近藤 全体会議で決まったことをブログに報告するなど、少しずつみんな活動に意欲的になってきています。

松浦 実際のビジネスで起こることが、そのままブラストビートのプロジェクトでも起こるんですね。社長が動かないと、みんな動かないとか。

――今後の活動予定をお聞かせください。

松浦 沖縄では7月のライブに向けて動き出しました。今年1月に琉球大学で講演をしたのがきっかけです。その後に学生が集まり、そのまわりの社会人も巻き込み、ブラストビート活動のためのスポンサー獲得を始めました。心に火を付けると、勝手に物事は回り出すんですね。基本的には制約を設けず、地域の人間が動き出すところまでが自分の仕事かもしれません。

一方、ブラストビートを運営する大人たちからも、「子どもたちにやらせるだけでなく、大人たち自身も背中で語ろうぜ!」ということで、コンサルタントや公認会計士などのサラリーマンが「大人解放区」という会社を作り、7月24日にライブを開催することが決まりました。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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