■私たちに身近な生物多様性(23)[坂本 優]
柿の実は、野鳥たちの格好のご馳走だ。ヒヨドリやスズメ、メジロ、シジュウカラ、ムクドリ、ツグミたちがついばみ、数日見ないでいると、いつの間にかなくなってしまう。
晩秋のある日、前日までにすっかり実を落としていた柿の枝に、実が残っていたかとも見えるオレンジの影があった。
それはシベリアなどから秋の里に渡ってきた、ヒタキの仲間、ジョウビタキのオスだった。ヒタキという名は、チッチ、キッキなどの鳴き声が火打石で火を起こすときの音に似ていることから付けられたと聞く。
ジョウビタキのオスは、柿の実のように鮮やかなオレンジ色の腹部と暗褐色の背中、そして銀白色の頭頂部のコントラストが特徴的だ。銀白色の頭頂部が白髪のようだ、ということから、能などで老翁やその面を意味する尉(ジョウ)を冠して、ジョウビタキと名付けられたという。
チベットからモンゴル、ロシア沿海地方など東アジアの比較的高冷地で繁殖し、冬は大陸の平地や日本などで越冬する。都内の公園や住宅地でもよく見かける身近な冬鳥だ。
日本での繁殖例も知られてはいるが、主に大陸で春から夏にかけて繁殖し、秋以降、日本海を渡って飛来し、一羽ずつ縄張りをつくって越冬する。そして、その縄張をパトロールするかのように、よく同じコースを飛んで来て同じ枝にとまる。
仲間同士では激しい縄張り争いをするが、人間に対しては、昔から、近くまで寄ってくる人懐っこい野鳥として知られている。