軍備ゼロ、自然エネ100%の国「コスタリカ」㊤

「対話」を追及する平和国家

コスタリカで紛争、軍備に替わるものは「対話」と「教育」である。

もちろん、紛争の多い地域で軍備を持たないコスタリカはこれまでも何度か紛争に巻き込まれる危機はあった。2014年に隣国のニカラグアがコスタリカの一部を占領した際は国際司法裁判所に訴え紛争を解決した。

武器を持つ国と軍備で対応するには軍事力の競い合いになるが、コスタリカは「競争ではなく協力」、つまり武器や軍備ではなく国際法や国際機関の力を活用してきた。武器をもたない国に武力を使おうとする国に対して国際社会がどう反応するかは結果を見ても明白だ。

軍備を解いたホセ・フィゲーレス大統領は「世界の政治的見解が我々の軍だ」と話したと言うが、その意思は国民の間にも現在も浸透している。首都サンホセには1980年に「国連平和大学」が開校され、紛争管理と平和構築における革新的な視点を学ぶために世界から留学生が集まる。

公認ガイドの上田晋一朗さんも「コスタリカに20年以上住んでいるが、口論している場は見ても暴力を街で見たことがない」と話す。市民の間にも対話で争いを解決することが根付いているようだ。

小学生から民主主義の基礎を学ぶ

2学年が一緒に学ぶモンテベルデの小学校。移民も多いので多様性は当たり前だという。

「兵士の数だけ教師を作ろう」をスローガンに軍事費を教育費に充当したコスタリカは、国家予算の約30%を教育費に充てている。幼稚園から高校まで教育費は無料、識字率が98%ということからも教育の浸透度がわかる。

この教育の基本はやはり対話と人権だ。私が訪れたエコツーリズムで有名な観光地モンテベルデのセ―ロプラノ小学校のエリック・サモーラ校長先生はこう話す。

「大統領選挙の前には小学生も模擬選挙をします。子供たちは自分が支持したい政党に分かれて、政策についてもディベートをします」子供たちは、生徒や先生、親と対話をして、生きている政治を学ぶのだ。

模擬選挙について話してくれたエリック・サモーラ校長先生(中)と公認ガイドの上田晋一朗さん(右)

人権についてはコスタリカの裁判システムを見るとわかりやすい。民事や刑事裁判だけでなく憲法裁判所があり、市民は誰もが人権や憲法に対する訴えを無料ですることができる。小学生でさえ裁判をすることもあるという。市民が起こす違憲訴訟は年間2万件を超える。コスタリカでは憲法は市民のために存在し活かされるものとなっている。

平和文化を発信し、教育により民主主義がしっかり根付いているコスタリカだが、もちろん課題がないわけではない。移民問題とそれに伴う高い失業率だ。20年前360万人だった人口は500万人まで増大した。

同国の憲法31条に「コスタリカ領土は、政治的理由で迫害を受けている人の避難所である」とあるように憲法でも移民を受け入れることを明記している。そのため昨年は政治的混乱が続くニカラグアから100万人近い移民が流入したという。医療も無料で受けられるため、病院が移民でいっぱいになるなど問題も起きている。

さまざまな課題はあるものの、軍隊がないことは市民の誇りとなっており、子供の時から人権や平和の在り方について実践的に学び、それが市民の意識に根付いている。「Pura Vida!」はそういった民主主義の厚みがあってこその言葉なのである。

*後半は、コスタリカのエネルギー、自然保護についてレポートします。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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