学校内の「環境議会」で特別授業
翌日アーヘン市内のギムナジウムで、「環境議会(10歳から18歳までの全学年の生徒約50名が構成)」の特別授業に招かれた鴨下さんと森松さんは、自分たちの11歳の子どもと同年齢の生徒たちも、年長者と同様に次々と挙手して質問を続ける姿に、驚きを隠せなかった。
二人は、生徒たちに向かって、ドイツの脱原発を中心としたエネルギー転換政策を讃えた。その上で、鴨下さんは「原爆よりはいいとどんどん増えた原発が、やはり悪いとわかり様々な新エネルギーが増えてきた。しかし、たとえば風力発電にも鳥への害や低周波問題があり、人間が創るものは完璧ではない。みんなで決めて創った後に危険だとわかったら、経済的損失などを考えずにすぐに止められる力を、みんなが持ってほしい。創るよりも止める方が難しいということを、覚えておいてほしい」と訴えた。
避難する前に、放射能で汚染された水道水を飲んで娘に母乳を飲ませるしかなかった森松さんは、「いちばん伝えたいことは、エネルギーの問題でも環境汚染の問題でもなく、命に関わる人権の問題。原発事故による無用な被ばくからまぬがれ自分の命を守るのは基本的人権であることを、世界
のみなさんと共通の認識にしたい」と呼びかけた。
森松さんは、27日間の欧州滞在中に、フランスの小中高大学も含めて25回の講演を行なったが、この授業は特に印象深かったという。「生徒さんたちの目の輝き、私たちへの質問の鋭さ、チェルノブイリ原発事故当時は生まれていなかった子どもたちが、その教訓もしっかり学び取って活かそうとしている姿に、感銘を受けました」と、森松さん。
「民主主義の国ドイツ」を実感
自力避難者母子の欧州講演ツアーは、昨年3月に森松さんがジュネーブの国連人権理事会でスピーチをした機会に欧州在住の日本人ネットワークが企画し、今年も同様に各地の3.11記念行事として開催した。
鴨下さん母子は講演ツアーに先立ち、ドイツのハインリヒ・ベル財団が毎年行うアクション週間「チェルノブイリとフクシマ後の未来のために」に招かれ、ベラルーシとウクライナから招待された二人と一緒に、北ドイツの様々な学校や議会などを毎日訪問した。その後、森松さんと合流してフランス各地やベルギーのブリュッセルで講演後、ドイツのアーヘンに招待された。
鴨下さんはドイツで8ヶ所の学校を訪れ、「子どもまでもが民主主義を語り、誰もが当たり前の様に政治を語る国」を目のあたりにした。そして、「いつか日本の子どもたちも、ドイツのように安心して自らの考えを発信していけるようになったら、こんなに素敵なことはありません」と振り返った。
奇しくも、北ドイツの学校の生徒と同じ質問が、アーヘン講演の参加者の一人からあった。「この8年間とても辛くネガティヴな体験ばかりでしたが、良い体験もありましたか」。鴨下母子は即答した。「こうしてみなさんに会えたことです」。
さらに、森松さんは付け加えた。「私たち母親は、日本で誹謗中傷などを受けながらも伝え続けてきましたが、周りの方がその声を拾い上げてくださり、国連の人権理事会で訴えるチャンスや、この会場のみなさんの前でお話しさせていただく機会をいただけました。だからこそ、黙ってはいけないと思うんです」。