これまで社史の役割の重要性や、社史を重視する資生堂の事例に触れてきましたが。最後にさらに踏み込み、社史とサステナビリティーとのつながり、その向こうに見える社史の新たなる地平について、可能性を探ってみたいと思います。
「価値創造」のコンテキストとしての歴史
社史の発行プロジェクトは、企業自身の持続可能性のみならず、企業が持続する前提となる社会の持続可能性や、社会との関係性を見直す最大のチャンスです。
そしていわゆる「価値創造」の歴史的再構築が可能となるのも社史編纂という未曽有の事業なのです。以前取り上げた『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済社)において、成長より継続を重視した企業の地域コミュニティーとの結びつきの重要性が説かれています。
今やいかなる企業も社会との価値観の共有やバリューチェーンへの責任を軽視することは、その企業自身の存在価値と存続可能性に影響します。
持続可能な経営を実現させるということは、それ自体が持続可能な社会との親和性が高いということでもあります。なぜなら、企業が「儲け」を何十年、何百年と出し続けていくためには、多くのステークホルダーと長い関係性を築き上げ、信頼し続けてもらう必要があるからです。
そして企業の歴史には、その企業の存続理由、コアとなる強み、社会との関係性などがコンテキストとなって幾重にも積み重なっています。いくつか事例を見てみましょう。
企業のルーツや社風に見る「本物」の精神