中井環境次官:地域循環共生圏で「質的な成長」へ

「26%減」では2度目標は無理

─欧州では経済復興と脱炭素を掛け合わせた「グリーンリカバリー」が盛り上がっていますが、日本はどうでしょうか。

日本も「グリーンリカバリー」では負けていません。今年7月に閣議決定した成長戦略及び骨太方針2020に環境と成長の好循環を実現するという方針を盛り込みました。

パリ協定は、産業革命以前と比較して気温上昇を2度未満に抑えることを求めていますが、日本は2030年度までに温室効果ガスの排出を2013年度比でマイナス26%を自己目標に掲げています。しかし、「26%減」を達成しても、パリ協定で定めた2度未満に抑えることはできません。

9月からは経産省と合同の審議会を開き、地球温暖化対策計画の見直しを始めています。3月に提出したNDCでは削減目標についてエネルギーミックスと整合的な意欲的な数値を目指すとしており、これにつなげていきます。来年11月の「COP26グラスゴー会議」までには発表する予定です。

環境と成長の好循環を生み出すために、水素社会を実現するための設備投資やグリーンボンドの発行を含めたESG金融の推進、再生可能エネルギーの主力電源化、分散型エネルギーシステムの確立などを目指したいと考えています。

─2018年に閣議決定した第五次環境基本計画では目指すべき社会として「地域循環共生圏」を掲げました。環境、社会、経済を同時に回していくことを環境政策として打ち出しましたが、地域循環共生圏で目指す「新しい成長」とは何でしょうか。

質的成長めざし モノサシ変える

質的成長を軸に人口減社会に対応する

地域循環共生圏は、大量生産・消費のあり方を見つめ直し、エネルギーや食料を地域の資源からつくる自立・分散型の社会を目指すための考え方です。地域にある全ての資源を生態系(エコシステム)がもたらす恵みととらえて、健康的な成長を目指しました。ここでいうところの新しい成長とは「質的な成長」のことです。貨幣経済では測ることができない、生活の質の向上も含まれます。

人口が減るとGDPが減るという議論もありますが、付加価値の高い技術・モノ・場所に適正に資金が回るようになれば、人口が減ってもGDPが減らない社会が可能となります。こうした考え方が財政や税収の面から見ても極めて重要です。

地域循環共生圏を具現化するために、今年に入り「環境省ローカルSDGsプラットフォーム」を立ち上げました。これは、人とモノと資金と技術をつなぐ場です。

このプラットフォームでは、各地域の資源を活用したビジネスをつくるために、関係省庁による支援制度の紹介や地方銀行や信用金庫の相談などを受けられます。地域金融機関が単独では一歩踏み出せない案件を環境省として支援します。

ビジネスパートナーとのマッチングの場として大いに活用してもらいたいですね。現在、企業へ登録を呼び掛けています。

炭素の価格付け 有効なナッジに

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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