原田勝広の視点焦点:コロナ禍で活躍光るNPO

人は誰でも論理的に考え、理論的に行動したいと考えるのが普通です。しかし、論理だけで現代社会が抱えるすべての課題が解決できるかといえば、無論そんなことはありません。お互いが肩肘じ張って論理だけを言い立てればギスギスした険悪な雰囲気となり、最後はケンカになってしまいます。

そこで、理論ではなく感性の持つ可能性を見直すべきだという声が最近、強くなっているのです。第六感、想像力,センスといった感性は非科学的なものではなく、むしろ複雑で矛盾に満ちた今の時代に不可欠だというわけです。内面に問題を抱えている子や被災した子、格差に苦しむ子、そんな子どもたちに寄り添う感性こそが、今村さんの、そしてカタリバの魅力なのでしょう。

今村さんは子どものころ作文が好きな女の子だったと聞きました。作文コンクールで入賞した文章力が評価され慶應義塾大学のAO入試に合格したそうです。もともとアーティスティックなセンスの持ち主なのです。その懐の広い感性が格差社会に象徴される不公平、不公正への憤りと、自由な生き方を認める多様性への期待を育んでいるのだろうと思います。

途上国の貧困と日本の貧困はどう違うのか。「奨学パソコン」の担当で、フィリピンでの子ども支援の経験が長いオンライン事業部、石井丈士さんはこう説明してくれました。
「フィリピンでは子どもは貧しいけれどが、周りも同じ状況。そのためコミュニティがしっかり協力し合って結構楽しく生きている。これに対し日本は、孤立化、分断化している。コミュニティが弱いので、誰も助けてくれないし、一人で悩んでいる。誰に相談したらいいのか、どこへ行けばいいのかさえわからない」

内閣府の「若者の意識調査」によれば、「自分の将来に明るい希望を持っている」若者の比率は日本61.6%。米国91.9%、スウェーデン90.8%、英国89.8%に比べ極端に低い数字となっています。一方で、「社会の役に立ちたい」は、日本の54.5%は最高で、スウェーデン53.7%、ドイツ49.7%、フランス44.8%を上回っています。

社会貢献意欲の高い日本の若者が、自分で主体的に考え、動けるようになる、そのキッカケづくりこそがカタリバの使命といえるでしょう。それができれば、将来に明るい希望も持てる若者も増えるのは間違いありません。政府や学校、あるいは親にもできないこと、そこにNPOの役割があることを教えてくれているような気がします。

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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キーワード: #NPO

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