州政府の保護区に認定へ
プロジェクト開始当初の試算では、2万ヘクタールを買い取るのに約240億円が必要だった。そこでサラヤは、消費者の関心を高め、協力を得ようとヤシノミ洗剤をはじめとした商品の売り上げの1%が寄付になる仕組みを構築した。同時に、自社で持続可能なパーム油(RSPO)の調達を進め、啓発にも力を入れた。
サラヤ広報宣伝統括部の廣岡竜也統括部長は「15年にわたって活動するなかで、一般消費者にもパーム油の問題が認知されてきたのを実感している。NGOは行動力や専門知識があっても、資金がない。
企業は資金や情報発信力があっても、実効性のある活動ができない。企業とNGOが互いに補完し合い、目的のために活動していくことに協働の意義がある」と語る。
こうした企業、NGO、消費者の努力が実を結び、BCT/BCTJがこれまでに買い取った土地90ヘクタールが州政府の野生動物保護区に認定される見通しが立った。
「全体から見れば小さな面積かもしれないが、法的に熱帯林が守られるようになる。実現できたのは日本の皆さんの支援のおかげ」と青木事務局長は感謝の意を表す。
サラヤの廣岡統括部長も「非上場のサラヤは、株主ではなく消費者から成果を求められる。寄付は目的を達成するために信頼できる人にお金を託すこと。『環境保護』は成果が見えにくいが、保護区に認定されることは大きな成果」と喜びを語る。
現地ニーズに合った支援を
BCTJは、企業や消費者の思いが込められた寄付金を2つの指針のもとに活用する。一つは、支援者に約束した使途を守ること。もう一つは、現地が必要とする活動に使用することだ。
例えば「吊り橋プロジェクト」は、川を恐れるオランウータンが森から森に移動できるように、吊り橋を架ける取り組みだ。青木事務局長は「現地の調査に基づいて、効果的な場所に6本の橋を架けた。
注目されやすく、寄付を集めやすい取り組みだが、現地が必要としなければこれ以上は増やさない」と強調する。
逆に専門外でも、現地が必要とすれば知恵と人脈を総動員して実現を目指す。新たに立ち上げた「井戸堀りプロジェクト」もその一つだ。ゾウの保護施設では、飲料や水浴び用にたくさんの水を使うが、最近は雨不足に悩まされているという。そこで、最適な工法として日本伝統の「上総掘り」を探し出し、安定した水の供給に挑戦している。
SDGs(持続可能な開発目標)の目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にあるように、壮大な目標を達成するには、国やセクターを越えた協働が欠かせない。15年前に始まった、ボルネオの残された熱帯林や野生動物を守り、次世代につないでいく挑戦が結実し始めたことは、SDGsにかかわるすべての人に勇気を与えてくれる。