GIFT-YLP インドの農村で垣間見た新しいビジネスの可能性とは。――プログラム参加体験記(2)

年明けすぐの1月5日から16日まで、香港・インド(デリー)で「GIFT-YLP: インドモデルビレッジプロジェクト」が開催された。日本からは私を含め3名 が参加し、他国から(US・オーストラリア・カナダ・中国・インド・香港) 17名が集い、合計20名で2週間実施された。

GIFT-YLPとは、短期集中2週間で、グローバリゼーション・アジアの役割、市民社会、政府の役割・企業倫理・多様性・CSRなどに関する座学と実際 のフィールドワーク、ビジネスプランの策定、最終的には投資家向けのプレゼン実施まで行う、次世代リーダー育成プログラムである。特徴的なのは企業のマ ネージャークラスを対象にしており、過去参加企業としてはJPモルガン、クレディ・スイス銀行、キャセイパシフィック航空、シェル、ヒューレットパッカー ドなど、グローバル企業が名前を連ねている点である。参加者は、従来のビジネスフィールドとはかけ離れた途上国において、ビジネスパーソンとして日ごろ 培っているスキルを使いながら、現地の問題解決を目指して、持続可能なビジネスモデルの策定や投資家向けプレゼンを実施していくことになる。

プログラム概要

【プログラム名】
Global Young Leaders Programme
【プロジェクト名】
Learning through Other’s Eyes (年4回開催。プロジェクトは毎回異なる)
【場 所】
アジア圏 (座学は主に香港・北京等の都市部、フィールドワークは農村など各国地方エリア)
【参加者】
アジア圏を中心としたビジネスマネジャー等 20名程度
【3つのモジュール】

-モジュール1
学術的なクラスとリーダーシップ・デベロップメントを中心に運営。グローバリゼーション・市民社会・政府の役割・企業倫理・多様性・CSRをテーマ として扱う。(Module2の内容に合わせてスペシャルトピックスも盛り込まれる)
-モジュール2
既に現地でビジネスや活動を実施しているパートナーと協働で、フィールドワークを通じた情報収集を基に、ビジネスプランを策定していく。環境問題や文化尊重に関して妥協せず、貧困を軽減させられるようなソーシャルベネフィットとビジネスプロフィットを両立させるサステナブルなビジネスプラン作りが求められる。
-モジュール3
自ら策定したビジネスプランについて投資家向けにプレゼンを実施。(2週間のプログラム終了後は、 GIFTが投資案件を引き継ぎコミュニティとビジネスセクター、NGOと連動し、投資者とアクションプランを模索していきながら、ビジネスプランを微調整し、実際の投資を呼び込むまでフォローする)

【主 催】

GIFT (Global Institute for Tomorrow)gift

【今回のプロジェクトパートナー】

Drishtee

私の理解では、GIFT-YLPの魅力はModule1の座学講座で、自分の考える視野を広げられるだけ広げ、そのマインドを持って実際のフィール ドワークのModule2に入っていく所にある。そのため本来であれば、Module1の内容、特に参加者同士のバックグラウンドの違いによる意見の相違 点や、それをお互い理解してもらおうと交わした激論の様子などもご紹介したい。しかし、今回はタイトルにもある通り、「インドの農村で垣間見た新しいビジ ネスの可能性」によりフォーカスするために、Module2を中心にお話していくことにする。

さて、「インドの農村」と聞いてどんな印象を持つだろうか。「貧しい」「汚い」「不衛生」「混沌」などというキーワードが挙がってくることが一 般的であろう。今回のプロジェクトで、我々のパートナーであったDrishtee社はまさにこの「インドの農村」をターゲットにしたビジネスを展開してい る。しかも、いくつかのターゲットの一つとしてインドの農村を捉えるのではなく、インドの農村でしかビジネスを展開していないのである。しかも、将来的に は「世界の農村・貧困地域におけるelectronic Wal-Mart」を目指しているという。

我々のModule2は、まずこのDrishtee社の既存ビジネスモデルを理解することから始まった。Drishtee社は2000年に設立され、イン ド農村をターゲットとしたE-Governanceビジネス(出生届・免許書申請などの代理業ビジネス)などのサービスを開始し、IT技術の利用と起業家 支援を通じて、今では(1)教育、(2)ヘルスケア、(3)金融、(4)日用品などのデリバリーマネジメントの4分野に事業を発展させている。結果、 300人以上のスタッフと23オフィスを構え、支援した起業家の数は4,000人を上回るほどの規模に現在なっている。

私が彼らのビジネスの説明を受けた中で、非常に印象に残っているのは、「貧困地域の人々は持っているお金の絶対額が少ない、でもそれ以上に問題 なのは、あらゆる物・情報へのアクセスが貧しく、そのアクセスのためにそもそも少ない所持金から費用を捻出していることである。このアクセスの貧しさを解 決しない限り、貧困問題は解決できない」という話であった。

例えば、子供が生まれた時の出生届の提出や車を運転するための免許書の申請は、貧しい人でも実施し なければならない。しかし、そのような申請を受け付けてくれる役所は、農村からは遠く離れた町にしかない。そのため、交通インフラやサービス・情報インフ ラの整備が遅れている農村では、ほぼ丸一日の時間をかけ、少ない所持金の中から交通費を支払って申請に出向かなければならないのだ。しかも、インドの行政 上、その申請は一回では済まず、審査や受け取りなどのために3回~4回も農村と町とを往復しなければならないのである。このような小さなことの積み重ね で、農村の貧困層の人々は、ますます生活が苦しくなってしまうのである。

Drishtee社はこの問題に着目し、創業当初はE-Governanceビジネス(出生届・免許書申請などの代理業ビジネス)などのサービ スを展開したのである。農村の人々に代わって、様々な申請をDrishtee社が実施すれば、農村の人々は町に出向くための費用も時間も削減し、その分の お金と時間を違うことに利用することができるというわけだ。Drishtee社のビジネスの考え方で非常にユニーク、かつ私にとっては新鮮だったのが、 「どうすれば農村の人々の可処分所得を増やせるか、そのためにはどんなサービスを提供すればよいか」という考え方であった。まさしく、この考え方はE- Governanceビジネスのコンセプトにも共通しているし、Drishtee社の事業区分そのものが“Saving(農村の人々の現在の支出を抑えら れるサービス事業”と“Income Up(収入を増やす手伝いになるサービス事業)”に分けられていることからも明らかである。

このように、Drishtee社が手掛けているビジネスは、考え方・発想そのものから普段我々が見ているビジネスとは全く別のものであった。

今回のプロジェクトではDrishtee社の現在のビジネスモデルを把握した上で、それを応用して、さらに農村が自立した生活を営むことができ る“Model Village”構想のビジネスモデルを策定するというミッションが我々には課されていた。そしてそのためには、(1)Drishtee社の現在のビジネ スモデルのコアコンピタンスは何か(2)農村が抱えている問題は何か(3)農村の特徴・強みは何か(4)市場にはどのようなニーズがあるのか、といった疑 問に対して、現地の人々へのインタビューやリサーチから的確な情報収集をしなければならない。

実際にグループに分かれながら、丸二日間かけてインドの農村のフィールド調査を実施した。バスが転倒するのではと思うほどのでこぼこ道を通り、 現地のDrishtee社の様子の調査や現地の人々へのインタビューを行った。

そこで私が目にしたのは、非常に驚いたことに、マイクロソフト社が提供したIT教育プログラムをPCで学ぶ学生の姿や、健康状態の情報を携帯電 話のマイクロチップを使って病院に転送するサービスや、ITを使ったサプライチェーンによる日用品小売りの販売網など、Drishtee社によるIT技術 を駆使した全く新しいタイプのビジネスであった。

実は正直に述べると、このプログラムに参加する以前は、発展途上国には先進国で成功したパターンを応用しても上手くいかないという説は聞いたこ とがあっても、どこかで納得しきれていなかった。しかし、実際に今まで考えたこともないようなビジネスのあり方を目の当たりにし、目から鱗という感覚を覚 えたのと同時に新たなビジネスの可能性を肌で感じ、非常に興奮したのを覚えている。

一方で、そのようなサービスがDrishtee社から提供されるようになっても、農村の人々が抱えている問題は依然としてまだまだ非常に多く、 解決しなければならないことが山のようにあることが、現地の人々のインタビューから伝わってきた。特に、現地での雇用機会の少なさが大きな課題として挙 がっており、どうすれば農村に住みながら収入を得て、サステナブルな生活を営むことができるようになるのかという点が、私達が策定していくビジネスモデル の重要な要素になっていった。

プロジェクトとしては、インタビューやフィールド調査を経て、実際のビジネスモデル・ビジネスプラン策定段階に入っていく。インドに移動してか らは、連日深夜12時過ぎまで会議が続く日々となっていたが、特にプレゼンの2日前くらいからは、プランの作り込みの段階になり参加者達にとってはまさに 正念場を迎えることになった。

我々のビジネスプランは、インドの農村でBPO(入力代行)ビジネスを展開するというものとなった。既存のDrishtee社のITインフラと サプライチェーンネットワークを使って、都心部で飽和状態になりつつあるBPOビジネスを農村で請け負い、顧客にはローコストでのサービス提供を、農村に は雇用機会を創出するというモデルである。

投資家向けのプレゼンに向けて最終調整をしていく中で、大きく議論になったのは、「ビジネスプロフィット」と「ソーシャルベネフィット」の位置 付けについてである。

ある参加者は「あくまでビジネスプランはビジネスプロフィットにのみ焦点を絞るべきだ」と主張し、ある参加者は「お金が集まれば誰からでもよい のではなく、我々も投資家を選ぶべきであり、そのためにはソーシャルベネフィットの考え方も盛り込むべき」と声を上げ、喧々諤々の議論となった。

投資家向けのプレゼンの当日には、BPOビジネスのアウトプットの質をどのようにコントロールするのか、具体的な顧客はどのように獲得するの か、といった鋭い質問が飛んできた。中には最初から、農村でのBPOなどあり得ないという姿勢でコメントをしてくる投資家もいた。しかしそれに対し、我々 のプレゼンターで中国政府系調査機関からの参加者が、「誰が15年前に中国が世界の工場と呼ばれる今日を想像できたでしょうか。品質が悪いことで有名で あった中国がこれほどまで製造業で世界と勝負できるとは予想できたでしょうか。どうか、インドの農村で出来ない理由を挙げるのではなく、そこに広がる無限 の可能性に目を向けてください」というコメントを述べた。すると、投資家の聴衆側からも自然と拍手が沸き起こった。

GIFT-YLPのコンセプト、それは“Outgoing from the comfort zone”、つまり従来の心地よい状態からの逸脱である。これは、単にこのプログラムに参加している参加者だけでなく、フィールドワークの農村地域や、 パートナー企業・グループ、そして投資家にも求められることなのだ。現状難しそうだから無理と判断するのではなく、そこから一歩踏み出すことで、初めて見 る新しい世界が広がってくるのである。

この新しい世界を垣間見るヒントを与えてくれる機会、これこそがGIFT-YLPが与えてくれる“gift”そのものではないかと私は強く感じ る。私自身このプロジェクトを通じて頂いた宝物のような“gift”を大事にそして大いに使って、今後自らの道を進んでいきたいと思う。そして同時に、一 人でも多くの方にこの“gift”を受け取って頂き、閉塞感が漂う現代の社会を変革していくパワーとして頂きたいと切に願っている。

GIFT-JAPAN事務局HP

http://www.jobweb.co.jp/company/content/view/538/235

GIFTに興味のある方は、こちらにご連絡ください。(日本語可)

(株)ジョブウェブ GIFT-JAPAN事務局:gift@jobweb.co.jp
関連サイト: GIFT(香港):http://www.globalinstitutefortomorrow.org/ (英語)

■今後の予定

それぞれ2週間のプログラムを予定しています。
2009年3月 カンボジア
2009年6月 中国
2009年9月 インド
2009年12月 インドネシア

★詳しくはGIFT-JAPN事務局にお問い合わせください。

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