「国内の脱炭素」だけでは気候危機は解決しない

気候変動の悪影響/被害は、リソースに乏しい貧困層/脆弱層に、とりわけ顕著に現れる。新型コロナ感染者が世界的に増加し続けているが、その真っ只中で、大きなサイクロン被害など、気候変動によることが疑われる被害が世界で数多く発生している。

新型コロナによる失業や貧困の拡大は、気候変動による被害を受けやすい脆弱な人々を増加させていることも懸念される。

SDGsの理念である「誰一人取り残さない」の観点から、国内外の最も被害を受けやすい脆弱な人々のための適応策を忘れてはならない。多くの温室効果ガスを排出し、経済発展を遂げてきた日本は、国内外の脆弱層を含む適応策支援の実践も求められる。

途上国に温暖化ガス削減ノウハウを

温室効果ガスの影響は国境を超えるので、気候変動による悪影響・被害を防止・軽減するには、国内の温室効果ガス削減だけでなく、世界全体の削減が必要となる。

日本の努力を打ち消さないためにも、ノウハウ・資金などのリソースが乏しく、排出が急増している途上国の温室効果ガス削減に対する日本の支援が求められている。

世界の温室効果ガス排出量の3分の1は、エネルギー起源CO2以外(森林減少などによるCO2排出のほか、フロンやメタンなど温室効果ガス排出)が占める。今後、エネルギー起源CO2に限らない、あらゆる温室効果ガスの削減に、日本が貢献していく必要がある。

少しでも多くの温室効果ガスを減らすには、世界のあらゆる温室効果ガスの削減可能性を網羅的に検討し、なるべく費用対効果の高い(同額の資金を投入した場合、削減量が大きい)削減策を優先することも重要だ。

これらの点から、「国内の脱炭素」に傾倒しすぎるのではなく、「脆弱層の適応策」「エネルギー起源CO2以外の温室効果ガス削減策」「海外の温室効果ガス削減策」への資金拠出がおざなりにならないよう注意する必要がある。

政府・民間セクターは、予算編成やESG金融の推進に際し、そうした視点を組み込んでいただきたい。

国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が、2021年11月に英国グラスゴーで開催される予定だ。世界を見渡しても、エネルギー起源CO2の削減取り組みだけでなく、それ以外の温室効果ガスの削減取組や脆弱層の適応のための取り組みが、まだ弱い。

日本政府には、国内の脱炭素社会構築の取組を着実に加速化するとともに、本稿が示した点も実践し、国際会議等の場で、リーダーシップを発揮することを期待したい。

adachijiro

足立 治郎(「環境・持続社会」研究センターJACSES・事務局長)

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)事務局長。 東京大学教養学部卒。 化学・素材関連企業勤務を経て、1997年よりJACSESスタッフ。CSRレビューフォーラムレビュアー・SDGs市民社会ネットワーク環境ユニット幹事・地球環境戦略研究機関(IGES)フェロー・島根県立大学非常勤講師等を兼務。著書に『環境税』(築地書館、単著)、『カーボン・レジーム』(オルタナ、共著)、『ギガトン・ギャップ─気候変動と国際交渉』(オルタナ、共著)等。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..