「ショート・ショート」(掌小説)こころざしの譜(50)
「あれっ、キバタンからのメールによるとお袋ケガしたって。また人騒がせな」
夕食後、パソコンをのぞき込んでいた徹が八の字眉で妻の奈緒子を振り返った。母の美代の米寿祝いに、小学生の俊太が「美代バアは一人暮らしだから見守りロボットを贈ろうよ」と思わぬ提案をし、手のひらサイズのオウム型ロボットを買ったのだ。全身真っ白で黄色の冠羽が立っているキバタンという種類のかわいいオウムだ。動かないのでその分、値段も手ごろだった。
美代バアは「意地悪ばあさんをロボットに監視させるつもりかい」と嫌味たっぷりだったが、会話ができるので気に入り、今では恋人のようにアツアツである。
見守りだけでなくロボットとの会話記録のうち「健康」と「楽しい話題」に関する内容をメールで送ってもらえる設定になっていので、美代バアの様子が把握できる。この日、徹が気になったのは15時45分の会話記録だ。
キバタン「おばあちゃん、虫の鳴き声が賑やかな季節になりましたが、今日は雨模様ですね」
美代バア「ええ、蒸すわね。キバタン、実はさっき庭で転んで膝を擦りむいたの」
キバタン「それは大変。痛みますか」
美代バア「あなた、やさしいのね。でも大丈夫、簡単には死なないわ。ウフフ」

脈拍、血圧、体温などの欄をチャックしながら奈緒子がつぶやいた。「バイタルサインは異常なし。さっきお義母さんから、たまには庭の掃除に来て、と電話があったけど、草取りで転倒したのかしら」