聴覚障害者がコロナに感染したら?「情報格差」に課題

テレビやニュースで見ると、新型コロナの治療をする病棟では、医師や看護師が厳重な医療用防護服を身に着けています。これでは、おそらく顔の区別はつかず、聴覚障害者が音声・表情・口形を読み取ってコミュニケーションするのは難しいと思われます。

また、手話通訳を外部から呼ぶ場合は、感染防止のため、「遠隔手話通訳サービス」というタブレットやスマートフォンなどを介して、手話通訳者が聞き取った音声を手話に通訳したりする形になると思います。しかし、遠隔手話通訳サービスを手配するのには、時間を要することが多く、医療従事者が直接筆談をする形が現実的だと思いますが、説明を筆談で行うのはかなり気を遣うことになるだろうと予想します。

聴覚障害者の場合、筆談やチャットでのやりとりができなければ、医師や看護師の指示を知ることもできませんし、こちらの病状を伝えることも困難です。できればお互い顔の見えるスマホ等のデバイスで、やり取りができる方法が理想的です。その辺りの配慮は、病院を探していただく保健所に事前にしっかり伝えておくなどの工夫が必要になってきます。

また、入院中は、感染状況確認や濃厚接触者リスト作成などで保健所との定期的なやりとりが必要になりますが、ほとんどの場合は、電話なので、メールなど別の方法でもできるように準備しておく必要があります。

ワクチン接種時のコミュニケーションサポートを万全に

日本でも医療従事者から先行して新型コロナワクチン接種が開始されました。市民への接種も順次、行われる予定です。ただし、ワクチン接種に関する情報の周知や相談・予約体制においても感染時と同様に、多様なコミュニケーション方法を用意する必要があります。

また、接種会場においては、コミュニケーションボードによる案内や、遠隔手話通訳サービスなどによる視覚情報も活用した多様なコミュニケーション支援を円滑・柔軟に受けられるような配慮が必要です。

普段から医療現場のインクルーシブを考慮しておく

今回挙げたような医療現場での聴覚障害者への情報伝達やコミュニケーション上の配慮が不足している問題は、実はコロナ以前から伏在していた社会課題です。その社会課題が、今回のコロナ禍であぶり出されたにすぎません。

聴覚障害者にとどまらず、他の障害を持つ人や外国人住民、LGBTQなど、社会的マイノリティは有事には排除されやすい傾向があります。誰一人取り残さないようにするためには、普段からのインクルーシブ対応のことを考慮しておくことが必要です。

東日本大震災で障害者の死亡率は2倍あったというデータもあります。それを教訓として、防災訓練に障害者の視点を入れる自治体も出てきています。それと同様に、医療現場などの社会のあらゆる面でのインクルーシブ対応が必要になってきています。

また、今回の新型コロナウイルス感染症に限らず、何らかのパンデミック(広範囲に及ぶ流行病)などの有事発生時にも誰ひとり残さず、公平に医療を受けられるように、普段からインクルーシブ対応を検討しておく必要があります。事が起きてから対応を考えるのではなく、普段から万全に備えておくことが極めて重要です。

※コロナ感染時の対応については、実際に感染した手話通訳業の宮原二三弥さんに取材協力いただきました。この場をおかりして御礼を申し上げます。

▼あんくんの新型コロナ奮闘記

https://soreyukeankunman.jimdofree.com/
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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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