横浜国立大学経営学部3年の渡辺洋平さん(20)は 鹿の廃棄問題の解決に向けて取り組んでいます。 日本で捕獲された鹿の利用率が1割に留まっている中で、鹿の利用100%を目指すために、鹿の革から財布を作っています。Z世代20歳の渡辺さんに話を聞きました。 (オルタナS編集長=池田 真隆)
北海道出身の渡辺さんが目指すのは、駆除した鹿の利用率100%の世界です。鹿を捕食するオオカミがいなくなったことやハンターの高齢化などが要因で、鹿の数は増え、鹿による農作物や林業への被害が深刻化しています。北海道では鹿との交通事故件数は1日約9件にも及び、死亡事故も起きています。
鹿の生息数は約300万頭とされており、そのうちの2割に当たる約60万頭が駆除の対象です。渡辺さんが問題視したのは、駆除された鹿の利用率です。実は、駆除された鹿の91%が廃棄されており、ジビエ料理などに利用されているのはわずか9%に過ぎません。
渡辺さんは、「大切な命を奪うなら、せめていただきたい。ただ捨てられるのはおかしい」と考えました。そこで、鹿に関する問題を多くの人に知ってもらうべく、啓発活動に取り組みます。
当初は、鹿の肉を食べて訴求することを考えていたのですが、それでは食べ終わったらなくなってしまうので、記憶に残りづらいのではないかと思い、商品を通して普及していくことを決めました。
そこで渡辺さんは鹿の革から財布をつくることにしました。ブランド名は、「Deervery(ディアベリー)」。工場で鹿を解体した際に出る皮を加工したものを買い取り、日本の縫製工場で財布に仕上げます。デザインは、美大に通う仲間に依頼しました。これらに掛かる数十万円の費用はすべて渡辺さんがアルバイトなどで貯めた貯金から捻出しました。
財布に目を付けた理由は、「多くの人が1個は持っているプロダクトだから」とのことです。現在、試作品を製作中で、4月以降にクラウドファンディングで資金調達をする予定です。
一般的に検品の段階で排除されてしまうような傷も「鹿が生きた証で愛着がわく」として、採用したいと語ります。財布をきっかけに鹿の問題を知ってほしいとの理由から、価格は「ほぼ原価」の1万円程度で考えていると言います。
高校生の頃から起業家志望だった渡辺さんは大学生になってからIT企業など3社でインターンを経験。起業するためのビジネスプランを3つ考えたのですが、どれもうまくいきませんでした。
今、振り返ると、うまくいかない要因は、モチベーションにあったといいます。「自分の快楽のためだけに起業しても虚しいと気付きました。社会をよりよくするビジネスをしたいと考えました」。
渡辺さんがこう考える原点には、大好きな祖父の存在があります。宮城で生まれた祖父は12歳から炭鉱で働き、高校には行かず、自衛隊に入隊しました。すでに亡くなってしまいましたが、「尊敬していたし、優しかった」と渡辺さんは言います。
どんな困難にも負けずに努力する祖父のDNAを受け継いでいきたいと思い、活動に取り組みます。今は、同じ大学の友人や後輩など合わせて4人の仲間たちで日夜オンライン会議の日々を送ります。
年内には株式会社をつくる予定で、短期的な目標として来年3月までに財布を1千個販売することを掲げます。財布で売り上げた資金を使って、将来的には鹿肉を使ったカフェやレストランを出したいと展望を語ります。