皆さんは植物由来の代替肉(ベジミート)を食べたことはありますか。見た目も味も本物の肉と変わらず、健康志向の方だけでなく、ベジタリアンやビーガンの方にも人気があります。日本では2015年に大手ファストフードチェーンが代替肉バーガーを発売したのをきっかけに広がり、それ以来、多くの企業が代替肉を販売しています。(株式会社Future Vision代表取締役・大喜多一範)

植物由来の代替肉と言えば、「豆腐ステーキ」を思い出す方もいると思います。豆腐ステーキは日本の70年代の高カロリー志向の食事の反省から、低カロリーの健康志向を背景に注目されました。

■牛肉1キロの生産に必要なトウモロコシは11トン

そして今、代替肉が注目を浴びている背景には、地球温暖化やアニマルウェルフェア(動物福祉)など、生活者のサステナビリティへの関心の高まりがあります。

畜産には飼料となる穀物と水、そして穀物の栽培には耕作地の確保と農薬の散布が必要です。現在、地球の人口が約80億人ですが、一方で野生の哺乳類は約4億頭生息しています。

これに対して牛や豚など哺乳類の家畜は約60億頭飼育されています。この60億頭の家畜の飼育には、飼料として主にトウモロコシが使われています。トウモロコシの生産量は穀物の生産量(21年予測は約27億トン)の約35%で、その内の約60%が飼料用です。

2018年を例にすると、トウモロコシの世界生産量1,116百万トンのうち、697百万トンが飼料用でした。牛肉1キロを生産するのに必要なトウモロコシは11トンに上ります。

■抗生物質やホルモン剤投与で人体への影響を懸念も

近年は特に、新興国の発展とGDPの増加に伴って食肉の需要が高まっており、それに伴い飼料としての穀物需要も増えて耕作地の拡大が進んでいます。このように代替肉が注目されている背景には、畜産の拡大による環境負荷の増加が大きな理由と言われています。

一方で、畜産も効率化の観点から伝統的な放牧から畜舎での集中管理を始め、伝染病を防ぐ目的での抗生物質の投与や成長促進のためのホルモン剤の投与など様々な施策が行われています。

ただ、抗生物質やホルモン剤の投与が、かえって家畜の健全な成長を阻害して、食事を通して人体への影響も懸念されています。そのため、伝統的な放牧や牧草食が見直されており、実際に一部のファストフード店では「グラスフェッド」と呼ばれる牧草飼育の牛肉を採用しています。

こうした中で開発されたのが代替肉のプラントベースミートです。食肉の一部を代替肉に置き換えることで、穀物の食用へのシフトを促して食糧不足に対応できますし、耕作地の拡大による環境破壊にブレーキをかけることも期待されています。

ただ、代替肉はメリットばかりではない点も理解が必要です。例えば代替肉の原料となる植物に遺伝子組換え技術を使っているメーカーも存在します。また、代替肉メーカー大手は米国やオーストラリアの企業ですが、海外から日本へ輸出されていると言うことは、カーボンフットプリントやウォーターフットプリントの課題があることになります。

イスラム圏ではベーコン風味の代替品も

そもそも、なぜ肉と同じ食感と味の代替肉が求められているのでしょうか。人は元来雑食で、肉も食べますが、同じ雑食の霊長類も多くが肉も食べます。これは、一説によると長い歴史の中で食糧が自由に入手出来なかった時代に、効率が良く栄養価が高い食料として、肉を欲求する本能が備わったためと言われています。

ところで、イスラム圏では豚肉が禁忌とされていますが、豚肉の代わりに牛肉や七面鳥を使ったハム風味やベーコン風味のハムやベーコンの代替品が広く普及しています。

代替肉もプラントベースであればベジタリアンやビーガンの方だけでなく、宗教上の理由や健康上の理由などで肉が食べられない方も同じ食卓につく事ができます。そのような「食のバリアフリー」として、各国で広がっていくと思います。

そして、冒頭のハンバーガーですが、近年、米国で発展を遂げて広がったのはご存知の通りです。この背景には米農務省(USDA)のハンバーガーパティの規格が関係していると言われています。

この規格ではまずハンバーガーのパティは牛肉を使うと定義して、さらに牛肉由来の脂肪であれば30%以内の添加を認めています。

米国ではステーキ肉の消費が多いものの、一方で副産物となる牛脂がフードロスとなっていました。その牛脂をステーキに適さないグレードの牛肉と合わせることで、ジューシーなパティのハンバーガーが誕生しました。つまり、ハンバーガーはもともとフードロス対策を背景として普及した商品であったわけです。

■欧州では日本の「SURIMI」が人気に

翻って、日本では戦後、漁業技術の発達で魚の漁獲量が増えましたが、伝統的なかまぼこの製法によって魚肉ソーセージが開発されて、当時高価だった肉類の代替として広く受け入れられました。

その後、この技術を応用してカニカマが開発されましたが、「SURIMI」の名称で世界に広がり、今ではヨーロッパで現地生産されて現地での消費が日本の消費を上回るまでになりました。

プラントベースの代替肉も日本国内での生産がもっと盛んになり、また原料としてサステナブルな農法による国産穀物の使用が進めば、新しい食文化の芽へと成長するものと期待して止みません。

参考資料:
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/04/210427-50989.php
https://www.maff.go.jp/chushi/jikyu/pdf/shoku_part1.pdf
https://www.maff.go.jp/primaff/seika/attach/pdf/210330_2020_02.pdf
https://www.meatinstitute.org/index.php?ht=a/GetDocumentAction/i/69890
http://faostat.fao.org/static/syb/syb_5000.pdf
http://www.fao.org/faostat/en/#data/QA

筆者略歴:大喜多 一範(おおきた かずのり)
株式会社Future Vision代表取締役/戦略コンサルタント
1989年同志社大学卒業。元YKK株式会社 商品戦略室長。元国立大学法人徳島大学非常勤講師。フランス、スペイン、モロッコで通算15年間現地法人のマネジメントに携わる。業界初となるバイオマス素材ファスナーを開発企画して2019年度グッドデザイン賞BEST100を受賞。愛知学院大学経営学部招聘講師(2021〜)