■連載:企業と人権、その先へ(3)
オランダ最高裁「政府には気候危機から国民を守る義務がある」■

5月26日、オランダ・ハーグの裁判所は、英国・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェル社(RDS社)の現在の温室効果ガス削減目標が十分ではないとして、2030年までに2019年に比べて、RDS社のグローバルでの排出量を45%削減するように命じる画期的な判決を出した。(佐藤 暁子・弁護士)

オランダと気候変動という切り口では、実は、オランダ最高裁が2019年12月にも、国家が2020年までに1990年比で25%削減すべき責任を負うことを認める内容で、これも大変画期的な判決を既に出している。

この二つの判決は、気候変動に関し、国家と企業という重要なアクターそれぞれに対する責任を論じたものだが、共通しているのは、気候変動が及ぼす人権へのリスクに着目した点である。

■気候変動の影響を最も受ける日本

気候変動は、自然災害の増加、農作物への影響、熱中症などを引き起こし、生命・健康をはじめ、様々な基本的な人権に多大な影響を及ぼす。実は、日本は気候変動によって最も影響を受けている国の一つである。

それにもかかわらず、企業による気候変動対策では、こういった気候変動と人権の側面に着目したものが少ないように感じる。それは、政府による気候変動対策にも言える。

気候変動対応となると、温室効果ガス排出量や再生可能エネルギーの使用割合といった数字が全面に出てくるため、どうしてもその裏にいる人たちの声や顔が見にくくなるのではないだろうか。

気候変動の影響は、他の社会課題と同様に、全ての人に均等に影響が生じるものではない。日本でも昨年、多くの水害が起き、残念なことに多数の死傷者が出たが、その中でも高齢者が多かったのは記憶に新しい。

世界各地で、例えば気候変動による海面上昇による強制的な移住、生態系への影響が原因の生活収入の減少、干ばつによる食糧不足など、日々の生活において深刻な影響が起きている。しかし、もともと社会の中で脆弱な立場にある人への影響が特に大きいことが懸念されている。

若者6人がCO2削減求めEU加盟国を提訴

一昨年に開催されたCOP25で、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、メディアが彼女の発言に注目する中、気候変動による危機を各国、企業のリーダーが真に理解し行動に移すためにも、島嶼国の若者ら、つまり、既に影響を被っている彼ら、彼女らの声がもっと聞かれるべきだと強調した。

気候変動は顕在化しているリスクにとどまるものではなく、将来世代が被る影響も甚大である。気候変動への取り組みの遅れによって損害を被るのは、むしろこれからの社会を担う若者である。

ポルトガルの8歳から21歳の若者6人は、2017年に発生した山火事をきっかけに、EU加盟国を含む33カ国に対し、自分たちの将来を守るには現状の気候変動対策は不十分であるとして、CO2排出量の更なる削減を求め、欧州人権裁判所へ訴訟を提起した。

この訴訟は、クラウドファンディングを通じて裁判費用を集めたという点でも注目を集めた。欧州人権裁判所は、事案の緊急性から、この訴訟に優先権を与え、今年5月末までに政府からの反論を提出するよう決定するなど、すでに、気候変動による人権侵害は司法の場で広く議論される時代となっている。

国や企業は、気候変動対策を検討するに際して、まずは、国内外で声を上げている人々の訴えに耳を傾けることが必要だ。なぜ気候変動に取り組むのか。将来世代に対する責任をどう果たしていくのか。こういった問いかけに十分に応えた気候変動対策へのコミットメントとアクションが求められている。

この点は、投資家も同様である。ESGの観点からも、気候変動、環境に関する「E」と人権に関する「S」を関連づけて、企業に対してエンゲージメントを行うことが期待されている。気候変動が喫緊の課題であることを企業と共有し、その取り組みが最終的なライツホルダーまで届くような金融市場を作る責任がある。

オランダの判決に対しては、RDS社は控訴するようである。最高裁まで進む可能性も高く、その場合、判決が確定するのはまだ少し先のことになるかもしれない。しかし、企業は、気候変動への取り組みが、指導原則における人権尊重責任を果たす上でもはや一刻の猶予もないことを自覚し、より一層取り組みを加速しなくてはいけない。