国連人権理事会は10月8日、「クリーン・健康的・持続可能な環境で暮らす権利」を基本的人権として認める決議を採択した。賛成43ヵ国に対し、ロシア、中国、インド、日本の4ヵ国は棄権した。これまでも日本は同理事会から人権に関する多くの勧告を受け、その数は直近2017年の審査で217にのぼった。日本は何を、どんな理由で拒否してきたのか。(オルタナ編集部・長濱慎)

人権を守ることは「誰一人取り残さない社会」の実現に不可欠

■「国際法で確立していない」を理由に棄権

日本が10月8日の国連人権理事会決議を棄権した理由について、外務省に聞いた。

「環境権は国際人権法において確立した権利ではなく、対象がクリーン、健康的、持続可能と広範囲にわたり定義が曖昧なことから棄権した」(人権人事課)。

しかしSDGsの目標3(健康と福祉)や目標11(まちづくり)に照らし合わせると、棄権すべきだったのか疑問が残る。

■217勧告のうち34の受け入れを拒否

国連人権理事会のホームページ

国連人権理事会は2006年に設立された。その活動のひとつが、国連加盟国の政府が互いの人権状況を審査し合う「UPR(普遍的・定期的審査)」だ。

これまで日本は3回(08年、12年、17年)審査を受け、3回目の審査では106ヵ国が合計217の勧告を出している。そのうち受け入れを拒否した34の勧告と拒否の理由を「UPR第3回日本政府審査・勧告に対する我が国対応」(外務省)をもとに紹介する。

●死刑の廃止・一時執行停止:勧告数21

拒否の理由

死刑問題は各国が自ら決定すべき問題。国民世論や凶悪な犯罪の存在等に照らせば、死刑廃止は適当ではない。法の支配の下では、確定判決は公平かつ厳正に執行されなければならないから、一時停止も適当ではない。

その後の状況

日本は18年と19年、オウム真理教の13人を含む18人に死刑を執行した。20年以降の執行数は現在のところゼロ。

●メディアの自由と独立性の保障:勧告数5

拒否の理由

報道の自由を含む表現の自由は、憲法および国内法で保障された基本的人権であり、政府がジャーナリストに圧力をかけた事実はない。放送法は放送事業者が自由なメディア環境を享受することを確保している。

その後の状況

「国境なき記者団」による報道の自由度は2010年の11位からランクを落とし、 21年は180ヵ国中67位に。

●従軍慰安婦問題の補償・知る権利の確保:勧告数3

拒否の理由

軍や官憲による慰安婦の「強制連行」や「20万人」といった数は、いかなる資料でも確認できない。慰安婦を「性奴隷」と称することは事実に反している。

その後の状況

複数の教科書が「従軍」や「強制連行」という文言を削除した。慰安婦問題をめぐる映画「主戦場」(19年)も話題に。

●被疑者の勾留を最長48時間に・警察の「代用監獄」廃止:勧告数2

拒否の理由

日本は厳格な司法審査を経て被疑者の勾留を行っている。警察官による取り調べの期間は国内法令によって規制されており、勾留の必要性を判断するのは裁判官である。

その後の状況

裁判官が勾留請求を却下する率は2010年代初めの1%から5%に上がる。しかし弁護士の立ち合いを認めず長時間の取り調べを行う捜査手法は変わらず、日弁連や冤罪被害者らが批判している。

●朝鮮学校の授業料無料化・平等な取り扱い:勧告数1

拒否の理由

日本は朝鮮学校の就学支援金の適用にあたって、法令にもとづき公正に判断しており、差別は行っていない。

その後の状況

最高裁は21年7月、朝鮮学校の無償化を求めるすべての訴えを退けた。

●被爆二世に対する被爆者援護法の適用拡大:勧告数1

拒否の理由

被爆二世について、原子爆弾の放射線による遺伝的影響があるという科学的知見が得られていない。

その後の状況

被爆二世への健康記録簿の配布が21年にスタート。医療費補助など支援強化への一歩と期待が高まっている。

●「核兵器禁止条約」への署名:勧告数1

拒否の理由

核兵器禁止条約は現実の厳しい安全保障環境を踏まえておらず、核兵器国や核の脅威にさらされている非核兵器国の支持も得られていない。核廃絶に向けたアプローチの異なる条約に署名はできない。

その後の状況

核兵器禁止条約は21年1月に発効、日本は署名せず。

以上、日本が拒否した勧告と理由を見てきた。日本は他にもジェンダー差別の是正、移住労働者の権利確保、国内人権機関の設立、東電福島第一原発事故への対応などについて勧告を受け、その多くに対して「フォローアップに同意する」と回答している。

次回のUPR日本審査がいつになるかはまだ未定だが、実施の際には今回棄権した「環境と人権」に関する勧告も多く行われるだろう。