復興プロセスから、持続可能な漁業のあり方を探る

岩手大学農学部の石村学志准教授は、東日本大震災から復興を遂げた気仙沼近海はえ縄漁業の事例から、漁業と沿岸地域の持続可能性について研究を続けてきました。震災以前よりも持続性を担保した気仙沼の復興は、近年耳にすることの増えた「グリーンリカバリー」とも重なります。石村准教授に話を聞きました。(旭硝子財団)

岩手大学 農学部 石村学志准教授

近年、海の環境と食生活を守るため、海の持続可能性は世界的に重要なテーマとなっています。岩手大学の石村准教授は、大学院在学中から水産資源管理を専門に研究を続けてきました。


石村准教授が10年以上関わってきたのが、宮城県気仙沼港に水揚げをする「気仙沼近海はえ縄漁」の船団です。気仙沼地元住民が船主でもあるこの船団は、地域産業であるサメ加工業の原料を調達するなど、地域の雇用と経済を支え、コミュニティをつくる要となる存在。石村准教授は、震災以前からこの船団の経営改善のために調査分析を行っていました。

2011年3月11日、気仙沼市は東日本大震災による津波の大きな被害を受け、港では大規模な火災も発生。船の多くは外洋にいたため助かりましたが、港にあった2隻は焼失してしまいました。

すぐに現地に入った石村准教授は、漁業者たちにインタビューを行なうことに。もうおしまいだ、漁業を復興するのは難しい……そんな空気を変えていったのは、石村准教授が問いかけたある質問がきっかけでした。

「どれくらいの水揚げ高があれば、子や孫に漁業を継ぎたいたいと思いますか」――。

多くの漁業者が考えた末に答えたのは「1隻あたり年間水揚げ高2億円」という数字です。「充分に生活できて、船を作り替える資金も確保できる金額とのことでした。おもしろいことに、その答えを口にしてから、もうだめだと言っていた人たちにも復興への意欲が見えてきました。ゴールの達成にむけて、人材や資材をどう配置していくか、戦略を立てることができるようになったんです」

喪失感のなかで、「水揚げ高2億円」という具体的な数値目標は、人々の気持ちを前に向かせる原動力になっていきました。石村准教授は「我々が漁業者に係わることで潜在的なビジョンを引き出し、モチベーションを保つことになると学んだ」と振り返ります。

■地域全体の協働が復興と持続性の鍵

2018年に完成した新船、かなえ丸

復興をサポートするため、石村准教授が行ったのは「生物経済モデル」の利用です。一定数の魚を残して資源回復をはかる生物モデルと、市場における漁獲量と価格の相関関係を分析した価格モデルを組み合わせることで、適正な漁獲量と適正な価格を算出しました。その結果、一度出港してから港に戻るまでの航海日数を、震災前の「43日」から「25日」にすることで、資源管理しながら利益が最大化できることがわかりました。

もうひとつ、取り入れたシステムが「共同操業」です。みんなで情報を共有し、1日入港するのは1隻までとする入港規制を行うことに。その結果、震災後、1キロ700〜800円だったメカジキの価格は、1キロ1000円を超えるまでに。適正量に加えて、鮮度が向上したことで商品力が高まり、刺身などの需要を生み出したことが要因でした。

「漁業者だけでなく、地域コミュニティそのものが、復興に向けて協力し、変化に対応していきました。加工・流通の努力によって、鮮度を保ったまま届ける体制が整ったのです。仙台でもメカジキを刺身で提供できるようになり、需要増につながりました」(石村准教授)

震災前には採算ラインを割っていた水揚げ高は、2016年には平均約2億円を達成(※)。復興を経て持続的漁業を行える経営体制を確立するに至りました。

「気仙沼の事例から見えてきたのは、水産資源や漁業の持続可能性は、地域コミュニティの持続可能性であるということです。漁業者、加工者、そこで雇用されるたくさんのひとたちが一体となって垂直協力していくことで、透明性と持続性が高まることが証明されました。今、この経験を大きく発展させ、海に囲まれた日本の持続可能性を、海を起点に考えていこうとしています」と語る石村准教授。その研究は、海の持続可能性を考える上で重要な事例と認識され、国内外から注目されています。

※2020年、2021年現在は、水揚げ高に新型コロナウイルス感染拡大による経済的影響を受けている

石村准教授に漁業と沿岸地域の持続可能性についてお話をうかがった旭硝子財団の発行する「af Magazine」の全文は、こちらからご覧いただけます。

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