ロンドン(2012年)、リオデジャネイロ(2016年)と続いた五輪の新しい伝統である「ケージフリー」卵が東京五輪では実現しない。国際社会は、バタリーケージ(集約飼育檻)を使わない養鶏やストール(妊娠豚の拘束飼育)をしない養豚など「アニマルウェルフェア」(動物福祉)を重視する。農水省は否定するが、鶏卵業界の要望が結果的に実現した形で、「負のレガシー」として後世に語り継がれることになる。(オルタナS編集長=池田 真隆)

23日からの東京五輪を控え、日本にもロンドン五輪やリオ五輪と同様に養鶏の「ケージフリー」化が国際社会から求められている中、養鶏業界のまとめ役である大手鶏卵生産会社アキタフーズの秋田善祺(よしき)代表(当時)が吉川貴盛農水相(当時)に現金を渡し、両者とも21年1月、東京地検に起訴された。
起訴状によると、秋田元代表は吉川元農相に大臣在任中の2018年11月~19年8月、養鶏業界に便宜を図ってもらう趣旨で、3回にわたり現金計500万円を渡したとされる。6月28日、東京地裁での初公判で「間違いありません」と起訴内容を認めた。
■農水省、「バタリーケージ容認」の方針は変えず
この2-3年、東京五輪の「アニマルウェルフェア問題」が一部で問題化し、農水省はバタリーケージ容認を見直すのではないかとの観測もあった。同省は2009年3月に出したアニマルウェルフェアに対応した採卵鶏の使用管理指針を21年3月までに4回見直したが、「バタリーケージを容認する」方針を変えることはなかった。
農水省の担当者は「何らかの働きかけがあったなら受託収賄の罪に問われたはず。単純収賄罪での起訴は、何らかの要望で立件するのは難しいという判断があったと見られる」と話した。
だが、同省は結局、バタリーケージ容認の方針を変更することは無かった。因果関係は定かではないが、結果的に、アキタフーズなど養鶏業界の要望が通った形だ。
日本ではまだ「ケージフリー」(集約飼育檻を使わない)という言葉になじみは薄い。動物福祉上、最も問題なのは、ケージ(集約飼育檻)に多くの鶏を詰め込み、卵を産ませる「バタリーケージ」で、アキタフーズも、バタリーケージを採用している。
しかし前々回のロンドン五輪では放牧の卵が使われ、前回のリオ大会では平飼いか放牧の卵が使われた。こうしたアニマルウェルフェア対応は、すでに五輪の「レガシー」になった感がある。
ただ、農水省の白尾紘司・畜産振興課課長補佐(アニマルウェルフェア担当)は「バタリーケージによる養鶏でも、採卵鶏の飼養管理指針に基づくチェックリストを順守していれば、アニマルウェルフェアは実現できる」と説明する。
そのチェックリスト(50項目)は「鶏の健康状態を把握するため、1日1回以上観察を行っていますか」「鶏に不要なストレスを与えたり、鶏がけがを負うような手荒な取扱いをせず、日頃から丁寧に接していますかーーなど抽象的な内容が多く、単位面積当たりの飼育数など具体的な規制はない。
■ユニリーバやネスレなどは「平飼い」に切り替え
2018年8月には、米国、カナダ、ニュージーランドなど合計9名のオリンピアンが、東京オリ・パラで使用する豚肉と鶏卵について、ストールフリーとケージフリーで100%調達するよう、東京都知事、東京オリ・パラ組織委員会へ嘆願する声明を出すなど、海外からの期待も大きい。
ケージフリーへの対応は、単なる「五輪対応」ではない。先進国では、一般消費者もケージフリーを求め始めた。実際、ユニリーバやネスレ、ヒルトン、マリオットグループなどのグローバル企業は相次いでケージ飼育を止めて、平飼いに切り替えた。
欧州委員会によると、EU域内ではすでに52.2%の養鶏場がケージ飼育から平飼いに切り替えた。スイスでは今や「平飼い100%」だ。オーストラリアでもケージフリーの割合が50%を超えた。
米国のケージフリー率は23.6%(2020年3月)だが、すでにケージフリー宣言をしている養鶏場が実際に切り替えれば、2025年のケージフリー率は64%に急上昇する見遠しだ。
ケージフリーには平飼いや、ドイツやデンマークなどで始まった「エイビアリー方式」がある。エイビアリーとは、止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリアなどを備えた平飼い鶏舎のことだ。
■日本でも「エイビアリー方式」の養鶏場も