■動物福祉の低さを世界に露呈へ■
認定NPO法人アニマルライツセンター(東京)は6月16日、東京オリンピック・パラリンピックでの畜産物の調達基準について、「アニマルウェルフェアが著しく低い」と指摘した。鶏を狭いケージに閉じ込めるなど劣悪な環境で飼育することに対して、世界ではアニマルウェルフェアの観点から批判が出ているが、東京大会では「ケージ飼育の卵でも問題ない」としている。前回のリオ大会では平飼いか放牧の卵が使われ、前々回のロンドン大会でも放牧の卵が使われていた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

「五輪が開催されなければ、負のレガシーが残ることもなかったと思いますが、開催されるようですので、日本の生産者にとってはあまりいいことではないと思います」――。こう話すのは、アニマルライツセンターの岡田千尋代表理事だ。
同団体では、東京大会の畜産物の調達基準について、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部に対して、再三アニマルウェルフェアの向上を求めてきた。
アニマルウェルフェアとは、動物本来の欲求を妨げることのないように適正に扱うことを科学的に定めた原則だ。
「飢餓と渇きからの自由」
「外傷と疾病からの自由」
「肉体的苦痛と不快からの自由」
「恐怖や不安、抑圧からの自由」
「正常な行動ができる自由」
――の5つの基本原則からなる。
劣悪な飼育環境は世界中で問題視されており、アニマルウェルフェアの観点からケージ飼育をやめるグローバル企業は増えている。ユニリーバやネスレ、ヒルトン、マリオットグループ、コンパスグループ、バリラなどがそうだ。

EUではケージ飼育から平飼いに切り替えた養鶏場は52.2%で、スイスでは平飼いは100%を誇る。オーストラリアでも切り替えた割合は50%を超えた。米国は23.6%(2020年3月)だが、ケージフリー宣言をしている養鶏場が切り替えることで2025年には64%に上がる。
一方、日本では70以上の企業や店舗が平飼いに切り替えているが、いまだ養鶏場の9割はケージ飼育だ。
先日は小泉環境相が「バタリーケージ(集約飼育方式)はアニマルウェルフェア上は推奨されない」と環境委員会で発言したが、農水省は「バタリーケージでもアニマルウェルフェアは達成できる」という方針を持つ。
岡田さんは、「鶏は1日1万回以上地面を突き、とまり木で眠り、巣に隠れて卵を産み、砂浴びで寄生虫や汚れを落とし、日光浴をし、運動をして心身の健康を保つ。身動きが取れないケージに閉じ込めて飼育すると、放牧で育てた鶏と比較して、骨は3分の1の薄さになる」と話す。
さらに、アニマルウェルフェアを高めることは病気の予防にもつながると説明を続ける。「バタリーケージ飼育の場合は、農薬を全身にかけて寄生虫を落とす。一方、放牧や平飼いでは、人獣共通感染症や薬剤耐性菌など人の病気の予防にもつながる」。
同団体では16日、組織委と大会推進本部に対して、「最後」となる要望書を提出した。要望書で求めたのは下記の通り。
持続可能性に配慮した畜産物の調達基準 2の⑤として以下の一文を加えてください。
「⑤高いアニマルウェルフェアを実現するため、生産過程でケージ飼育、拘束飼育、過密飼育がされない措置が講じられていること。※豚の場合、出産前1週間と出産後4週間を除く」