「ESG(環境・社会・ガバナンス)経営」や「ESG投資」が叫ばれているにもかかわらず、企業が「ガバナンス危機」に陥る事例は後を絶たない。古い経営体質が残る伝統的な企業ほど、ガバナンス改革に手が回っていないところが多い。何がガバナンスの邪魔をしているのだろうか。(オルタナ論説委員=町田 徹)

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一般社団法人ディレクトフォースの資料から抽出して引用 *クリックすると拡大します

東芝は、粉飾決算の果てに経営危機に陥ったばかりか経営が不当に株主権の行使を妨げようとし、トップが退任に追い込まれた。みずほ銀行は、今年に入って7度も重大なシステム・トラブルを起こした。三菱電機は、鉄道車両用のブレーキと空調設備で検査不正が相次いで発覚した。この3社は、例外なくESGやSDGs(持続可能な開発目標)に賛同していることで知られた企業だった。

本稿では、子会社や資本関係のある協力会社が、山梨、静岡両県にまたがる富士川水系で、産業廃棄物の不法投棄やダムの保守不足による周辺集落の水没、そして水利権の乱用など様々な問題を経営が解決できないでいる日本軽金属ホールディングス(日軽金HD)のグループ・ガバナンスを題材に、なぜ、老舗企業がガバナンス不全の罠に陥りやすいのか考えてみたい。

■山梨県の長崎幸太郎知事が怒りをあらわに

「(凝集剤の)使用者であるニッケイ工業から県に報告がなかった。大変遺憾な事態で、けしからん」――。山梨県の長崎幸太郎知事は8月24日の定例記者会見で怒りをあらわにした。

怒りの矛先が向いたニッケイ工業(山梨県早川町)は、日本軽金属(日軽金HDの100%子会社)が10%出資して「雨畑ダム」(早川町、日軽金が富士川水系の雨畑川に保有)で砂利採取などを委託してきた協力会社だ。

知事の怒りの背景には日軽金HDのガバナンス不在の問題が潜む。この問題は、日軽金HDのガバナンス不全に起因する4つの不祥事のうちだ。

話は2019年7月に遡る。ニッケイ工業など2社が、石油由来の凝集剤アクリルアミドポリマーなどが混ざった産業廃棄物の粘り気の強い汚泥をダム下流の雨滝川の河原に長年にわたって投棄していた事実が発覚したのだ。産廃投棄はそれだけで不法行為である。

山梨県は3カ月後に河原からの産廃除去を勧告した。が、増水時に多くが下流に流出。撤去できたのは計画(3798㎥)の4分の1に満たなかった。県は2020年2月に2社に厳重注意し、ペナルティとして社名を公表した。

■駿河湾の浅瀬に粘り気の強い汚泥が沈殿

しかし、この当初の処分は「生温い」と批判の的になった。雨畑川の水は下流の早川を経て富士川に流れ込む。この富士川について、山梨県は水質を調査しただけで、しっかり川底の変化を調査しなかったのだ。

静岡県に入った富士川下流域では川底に粘りの強い汚泥がこびりつき、水生昆虫が見られなくなったとか、アユが好む苔が付着しにくくなり、かつて豊富だったアユが姿を消したといった声が上がっていた。しかし山梨県は、耳を傾けなかった。

サクラエビの産卵場に近い、富士川河口の駿河湾の浅瀬に粘り気の強い汚泥が沈殿。過去数年続く駿河湾の特産品の記録的不漁の原因として疑うべきだったのに、この因果関係も明らかにしなかった。静岡県は不満をあらわにした。

さらに、焦点だった刑事告発処分を見送ったことから、ニッケイ工業社長が山梨県元職員という事情に忖度が働いたのではないかと地元は不信を募らせた。

事態が再び動き出したのは、今年5月。「2社が不法投棄した汚泥に含まれる凝集剤の成分と、サクラエビの産卵場に近い河口の汚泥の成分が独自調査で一致した」という静岡新聞の報道がきっかけだった。山梨、静岡両県知事は相次いで調査のやり直しを表明した。

話は冒頭の記者会見に辿り着く。山梨県が凝集剤メーカーの協力を得て調べ直したところ、2009年9月から2019年5月までに野積みされた産廃に含まれていた凝集剤は6種類、28.5トンに達した。ニッケイ工業の説明より種類も量も多かった。

しかも、会社が隠していた3種類の凝集剤はアミン系2種類、ダドマック系1種類で、いずれも魚にとって有害な魚毒性が指摘されているものだ。長崎・山梨県知事が怒りに震えたのも頷ける。

この件について、筆者が質問状を出したところ、日軽金広報室は6月23日付で「新聞報道での情報しか把握できておりませんので、コメントは差し控えさせていただきます」との回答が戻ってきた。

回答が事実なら、2年近くもの間、日軽金HD子会社は出資する関係会社への委託業務に関連した疑いの濃い問題の調査をしていなかったことになる。親会社・日軽金HDも含めてグループ・ガバナンスが機能していない動かぬ証(あかし)と言わざるを得ない。

■ダムしゅんせつを怠り、下流の生態系を脅かす