ガイドライン最大の改訂ポイントは、SIMの実践を「意思決定の視点」と「評価の視点」の2つで切り分けて再整理したことである。各ステージやステップで「評価」を用いることで事業や取り組みがもたらす変化や価値に関する情報を可視化し、それを社会的インパクトを向上させるための「意思決定」に活用していくということである。
例えば「事業対象地域において、特に深刻な問題(社会的ニーズ)は何か?」という問いを立て、社会問題に関する指標を調査することでその程度を把握し(事実特定)、それが重大なものか軽微なものかを判断する(価値判断)するのが評価の視点である。このように評価で得られた情報をもとに、自社でどのように取り扱うかどうかを判断するのが「意思決定」の視点である。
意思決定の連続である事業活動に、対象の変化や価値に関する情報の可視化という「評価」の視点を加えることにより、社会的インパクトを向上させるためのマネジメントになるという整理ができるのである。
以上、改訂ガイドラインのポイントを見てきた。
「ガイドライン本編」の他に、それをスライド形式で簡潔にまとめた「ガイドライン・サマリー版」がある。それに加えて関連ガイダンス文書として、グローバルなインパクト投資文脈で活用される「IMP(Impact Management Project)が提唱するインパクトの5つの基本要素とSIMの対応」と「グローバル・インパクト投資家ネットワーク(GIIN)が提供するIRIS+とSIMの対応」の2つの文書も示している。
社会的インパクトの世界は、様々な概念や方法論が世界中で登場している過渡期であるが、社会的な事業や取り組みのマネジメント方法論に普遍的な正解はないと考える方が良いであろう。大切なことは、価値を届けたい対象者のニーズをよく理解し、状況にあわせて事業活動のアプローチを創意工夫すること、その成果をデータに基づいて確かめることであると考える。
本ガイドラインは、社会課題の解決や価値創造を見据えた事業活動の現場の創意工夫を行うための羅針盤として参考にしていただければ幸いである。SIMIでは、ガイドラインの活用や改善提案含め、この取り組みへの多くの人々への参画を求めている。
最後に、直近の他の主体によるガイド類の発行の状況を紹介したい。
金融庁・環境省を中心とした社会的インパクトにまつわる政府の動きも活発化してきており、2021年3月に環境省から「グリーンから始めるインパクト評価ガイド」が発表されている。
また、2021年7月にインパクト投資を推進するGSG(Global Steering Group)国内諮問委員会から、投資家によるインパクト測定およびマネジメント(Impact Measurement & Management)の方法論や事例、最新の動きをまとめた「インパクト投資(株式)における「インパクト測定・マネジメント実践ガイドブック」が発表されている(筆者も執筆に携わった)。
◆千葉直紀(ちば・なおき)
社会的インパクト・マネジメントや発展的評価を通した社会的事業の開発・改善、組織のマネジメント支援等を専門としている。(一社)インパクト・マネジメント・ラボ代表理事、社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)事務局、日本民間公益活動連携機構(JANPIA)評価アドバイザーなど。