需要を無視した「循環経済」は成り立たない

サーキュラーエコノミー(CE、循環型経済)に関するシンクタンクや一部の研究者らの文章を読んでいてどうも合点のいかないことがある。CEに移行するとGDPは増加し雇用も増える、経済成長率も増加するというのだ。経済学者の端くれである私にはどうもその理屈が分からない。(中部大学経営情報学部長・教授=細田 衛士)

以前とはまた別の角度から論じてみたい。そもそもビジネスチャンスがあれば、それをものにするのが資本主義経済である。だからこそ、中世、近世、近代、現代と移り行く歴史の中で、資本主義経済は最も高度な発展と成長を遂げてきたのだ。CEでビジネスチャンスが生まれ、成長も雇用も良くなるのであれば、経済がそのチャンスを見逃すはずがない。

EUのドキュメントでは規制の壁でビジネスチャンスが実現しないとあるが、どうだろうか。確かにその一面は否定できない。だが、長いスパンで見れば規制などものともせず進んで行くのが資本主義経済なのである。

岩盤規制を乗り越えて宅配便ビジネスが栄えた例一つとって見ても分かる。EUがCEパッケージを提示してから6年経ったが、ヨーロッパ経済は鳴かず飛ばずの有様である。CEに移行すれば経済が良くなるというほど経済は甘くない。

ではそのような主張のどこが問題なのか。ポイントは一言、「需要」である。経済は需要と供給からなるという、この簡単な事実が忘れられているのだ。CEで経済が良くなると主張する人はほとんど需要の側面を無視するか、需要に関してムシの良い仮定を置いているかのどちらかだ。

これではいくらコンピューターで計算してもまともな答えが出るはずがない。ミクロ経済学的にいうと、支払い意思に裏付けられた需要がないと供給は実現しないし、マクロ経済学的にいうと有効需要が創出されない限り経済は活性化されない。経済学部なら一年生でも分かるこの簡単な理屈が分かっていないのだ。

需要の「代理」ではなく「創出」を

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

eijihosoda

細田 衛士(東海大学副学長、政治経済学部教授)

東海大学副学長、政治経済学部教授。1953年生まれ。77年慶応義塾大学経済学部卒業後、同大学経済学部助手、助教授を経て、94年より教授。2001年から05年まで同大経済学部長を務めた。中央環境審議会委員や環境省政策評価委員会委員なども歴任した。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..