新大久保で芸術家がクーデターに抗議

東京・新大久保はエスニックな街である。コロナ騒ぎが一段落し、通りは行き交う若い女性でにぎわう。

そんな中、ビルの一画でミャンマーのクーデターに抗議するアーティストの集い「BULLET HOLES COUNTRY」(弾痕の国)が開かれた。会場には「軍事政権に武力弾圧されているミャンマー国民に力を貸してください」という紙が張られ、3日間で150人もの日本に住むミャンマー人や日本人支援者が集まった。

こんなにもたくさんの人たちが国軍の弾圧に苦しむミャンマーの人たちに心を寄せているのだと驚かされた。

アウントゥウンさんの作品
アウントゥウンさんの作品

会場では日本在住のアーティスト、アウントゥウンさんの絵が掲げられている。ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」をモチーフにしたもの、親と一緒に逮捕される子ども、民主主義を守ろうとしている人たちの肖像画群。どの作品からも反クーデターの強いメッセージが伝わってくる。

ピカソの「ゲルニカ」を持ち出すまでもなく、芸術家は戦争や暴力を憎み、抗議の声をあげるのが常だ。

「芸術家とは、嵐の怒号の中でもしっかり北を指すコンパスである」というロマン・ロランの言葉通りと言えよう。

タイでは直近の軍事政権時代に、「タイのバンクシー」といわれる覆面作家が路地裏から軍事政権を批判する絵を粘り強く発信、国民の静かな怒りを代弁してきた。

ミャンマー国内でも、「私たちの武器はアート」をスローガンに70人ものアーティストがウェブサイトに「暴力やめろ」「人権はどこへ?」といった文字が躍るポスターやイラスト400点以上を掲載している。無料でダウンロードしてデモなど抗議に使ってもらおうというわけだ。

彼らは「ミャンマーでは自由が奪われ、人々は恐怖に満ちた環境の中で生きているが、われわれアーティストはいつも彼らとともにある」と声をあげ続けている。

アウントゥウンさんは日本でミャンマーのために政治的なメッセージをこめたアートプロジェクトに取り組んでいる。そうした創作活動を続けながら、政治的な弾圧で日本に逃れて来た人たちで作るビルマ民主化同盟の代表をつとめ、デモに参加したりしている。

マンダレー出身。子どもの頃から絵を描き始め1988年の軍事クーデターの時、学生だったが政治活動に参加、ミャンマー国立文化芸術大学で美術を学んだ。アートギャラリーを運営していたが、2005年に来日した。

「自分ができることは限られているが、軍政下で国民は苦しんでおり、寄付などで彼らを支援したい。そう思って今日は参加した」と語る。在日ミャンマー人は3万人余りで数は多くないが結束は固い。

ウェブサイトに載った「暴力やめろ」のポスター
ウェブサイトに載った「暴力やめろ」のポスター

集いの司会はジャーナリストの北角裕樹さん。5月にヤンゴンで逮捕され帰国したが、在日ミャンマー人との集まりに参加した時、アウントゥウンさんらアーティストと知り合った。

政治的なイベントを開く場所がないと知り、今回の企画に一役買った。「軍事独裁をなくさないとアーティストの未来もない」と共感を寄せる。

収監中の日本育ちミャンマー人監督の映画も

会場ではライブに加え、映画の上映もあった。たまたま滞在中だったミャンマーで逮捕され、インセイン刑務所に収監中のモンテインダンさんが監督した「エイン」。モンテインダンさんは6歳の時、父親の仕事の関係で来日、茨城県で高校まで育ち映画学校に進学、卒業後は日本とミャンマーで活動している。

クーデター発生時にヤンゴンでカメラを持って市内を撮影して回っていたが、デモ隊の学生らとも親しく逮捕された。

エインは自身の体験に基づく映画で、ミャンマー人の生徒が学校になじめず、いじめを受けて家出する物語。旅先で出会ったお笑いコンビから「笑われる前にそいつを笑わせてやれよ」「自分から仲間に入っていかないと」とアドバイスされ、日本社会に溶け込んでいく。

社会問題に挑んだ感動作で、会場では「映画の力はすごい。こんなに日本に近い監督が刑務所にいると思うといたたまれない」との声も聞かれた。

北角さんが監督した「一杯のモヒンガー」はコメディである。おいしいモヒンガーづくりの名人である父親が独裁者に誘拐される。かつて長期独裁を敷いたネウィン将軍の名前をもじった独裁者ネイミンは薬剤師出身で業界を支配したうえでモヒンガーのスープに「なまけ薬」を混入し、国民を堕落させようとしていた。息子は復讐のため、最高のモヒンガーの開発に心血をそそぐ。

やがてモヒンガーを極めた若者は大人気となり、独裁者とモヒンガーの鉄人対決に。そして見事、この対決に勝利、父親を救い出して独裁者を打ち負かす。この作品はクーデター前の制作だが、クーデターを予見しているようで興味深い。

横浜では日本人写真家が展示会

会場に顔を見せたのが亀山仁さん。2005年からミャンマーに毎年のように通い、人々の日常に入り込んで穏やかな国民性と美しい風土にレンズを向けてきた写真家だ。初めて訪問した時に子どもだった被写体ももう成人する年頃になっている。それだけに突然のクーデターに驚き、不安を募らせている。

「一刻も早くミャンマーの人たちが望む社会が実現されるよう応援する思いで写真展を企画した。展示を観た人が最近報道の減りつつあるミャンマーに関心を持つことで、ミャンマーの人たちの力になれれば」と亀山さんは動機を明かす。

横浜で開催中の写真展
横浜で開催中の写真展

写真展は11月14日まで、横浜市神奈川区上反町のフォトギャラリーPlace M YOKOHAMAで「ミャンマーの日常と非日常」というテーマで開いている。

亀山さんの写真のほか、クーデターで非日常と向き合っているミャンマーのX photographers(匿名の写真家たち)の作品も展示している。

亀山さんの撮影した写真が貧しいながらも平穏な日々を過ごしている親子や子供たちをやさしい目線でとらえているのに対し、ミャンマーのカメラマンはデモ隊を抹殺しようと突進する国軍や、殺害された仲間を悼む若者、拘束されて何かを訴えようとしている人など異様で過酷なミャンマーの現状をフィルムにおさめている。

「芸術家の役割とは、問いを投げかけることであって、それに答えることではない」(チェーホフ)ということであるなら、私たちは、アーティストたちが「ミャンマーの今」に対し命がけで発している問いかけに真剣に応える義務があるのではないだろうか。