視点焦点―複数アドレス持ってみない?

現代版「フーテンの寅」さん?

フーテンの寅さんの現代版だと言ったら怒られるでしょうか?これは日本人のライフスタイルを変えてしまいそうな画期的なサービスといえそうです。月額4万円で北海道から沖縄まで全国220か所にある家を会員同士でシェアして住めるというのだから驚きます。

2018年に設立されたアドレス(東京・千代田)が提供している多拠点生活プラットフォーム「ADDress」のことです。シェアリングエコノミー協会を立ち上げるなど「所有から共有へ」という時代のうねりを敏感に感じ取った佐別當隆志社長が社会問題になっている地方の空き家をシェアリングすることで働き方と住まい方の革命を起こそうと始めた事業です。リモートワーク導入のきっかけとなったコロナ禍の影響もあり、地方創生にも一役買いそうだと期待されています。

アドレスの佐別當隆志社長(左)と桜井里子取締役(二子玉川邸)

会員数は公表されていませんが、数千人以上の規模であること推測されます。職と住に関する日本人の意識は急速に変化しているようです。

葛飾柴又の草団子屋に住みながら風の吹くまま自由気ままにあちこち旅するフーテンの寅さんのように暮らせたらと誰もが夢見ますが、これが常人にはなかなか難しい。会員は一体どんな人たちなのでしょう? 答えはフリーランス28%、会社員36%となっていますが、佐別當社長と一緒に会社を立ち上げた取締役の桜井里子さんが具体的に説明をしてくれました。

IT駆使のフリーランスが利用

「リモート授業の大学教授、コロナ禍で在宅勤務を強いられ息苦しさを感じているサラリーマン、デイトレーダー、新宿に住んでいる週刊誌の記者は週末に房総で原稿を書いています。対話で相手の自己実現や目標達成を助けるコーチングの人、エンジニア、デザイナーなどクリエイターも多い。美容師、看護師もフリーランスの時代ですから」

利用者の声を聴くと、「意外に気軽に始められた。『人』と『生』が豊かになった」(50代女性)、「春は京都、夏は長野、秋は三浦半島、そして冬は九州の福岡と季節に応じて住み分けている」(30代男性)、「長期滞在で、その土地の歴史旧跡をじっくり回ることができた」(60代男性)。

なるほど、インターネットの時代、リモートワークができる人が多いのもうなずけますが、どうやら大半は普通の人のようです。果敢に全国を動き回る20代の若者もいますが、30-40代は都会と地方のデュアルライフ(二拠点生活)という新しい価値を楽しんでいる層のようです。当初は圧倒的に男性が多かったのですが、現在の男女比は6対4で、女性が急増中だそうです。強くなった女性は社会を変えそうです。利用者で意外に多いのが、離婚した人や家を処分してしまった断捨離組。なるほど時代ですね。

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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