■企業と社会フォーラム(JFBS)第10回年次大会
「サーキュラーエコノミーを目指して」

学会「企業と社会フォーラム」(JFBS)は、2021年9月2~3日、「サーキュラーエコノミーを目指して」を統一テーマとする第10回年次大会をオンラインで開催しました。本大会にはアメリカ、インドネシア、オーストラリア、タイ、台湾、中国、ドイツ、ナイジェリア、日本、バングラデシュ、フィンランド、フランスの12か国/地域から、学界、産業界、労働界、NPO/NGOの各セクターに所属する研究者・専門家が約120名参加して議論を行いました。(企業と社会フォーラム事務局=齊藤 紀子)

生産―消費―廃棄、これは伝統的な産業モデルであり、これまでのビジネスはこのモデルで行われてきました。しかしこの直線的なモデルはもはや持続可能ではなくなっています。エレン・マッカーサー財団などは、資源やエネルギー消費と経済成長を切り離し、実行可能で再生可能な循環型経済(サーキュラーエコノミー)を提唱しています。

サーキュラーエコノミーでは、廃棄物となったものが他のバリューチェーンの資源となること、生産から消費そして廃棄に至るまでの商品ライフサイクルの全ての段階で、いま使われているものを最大限利用していこうとしています。

サーキュラーエコノミーのビジネスモデルに関する文献では、廃棄物のリサイクル戦略(循環をつくる)や商品寿命を伸ばすためのエコ開発(循環のスピードを緩める)が多く論じられてきました。

また高い耐久性による消費サイクルの長期化、所有に代わって必要な時に利用することや、デジタルプラットフォームを通じた商品の再循環の支援といったシェアリングエコノミーのように、従来とは異なる方法によって循環スピードを緩めることが議論されています。

世界が直面している危機的な気候変動や資源不足、廃棄問題のもと、各国では循環型の事業イニシアティブを活性化させ、直線的なモデルを一部の戦略的なものに限定し、サーキュラーエコノミーへ移行することを促す法規制づくりが進められています。

本大会では上記のような趣旨のもと、サーキュラーエコノミーにかかわるテーマを学際的に考え、これまでのそしてこれからの政策や具体的な取り組みについて報告・議論を行いました。ここでは、キーノートスピーチおよびプレナリーセッションの内容をご紹介します。

責任あるビジネスは21世紀の新たなニューノーマルに

エドワード フリーマン教授(アメリカ、バージニア大学ダーデンスクール)およびバレンティーナ カルボネ教授(フランス、ESCPビジネススクール)からは事前録画映像によるキーノートスピーチ、マリュット ハンノネン氏(駐日欧州連合代表部通商部公使参事官 / 部長)および福本ともみ氏(サントリーホールディングス株式会社執行役員コーポレートサステナビリティ推進本部長)からはリアルタイムでのキーノートスピーチが行われました。

エドワード フリーマン教授は「ステイクホルダー資本主義とサーキュラーエコノミー」をテーマとして、ビジネスの新たな展開についての考え方を次のように示しました。

責任あるビジネスは21世紀の新たなニューノーマルになるでしょう。アメリカのビジネスラウンドテーブル(大企業CEO181人が構成)や世界経済フォーラム、そしてウォール街でさえ気候変動などサステナビリティ課題を鑑み、ステイクホルダー資本主義を支持しています。ステイクホルダー資本主義に向けた動きは全世界的に見られます。

経済的不平等、人種差別・性差別、移民問題、パンデミックなど多くの問題が山積する中で、株主だけをみることが適切ではないと考えられるようになっているのです。

ステイクホルダー資本主義はサーキュラーエコノミーと親和性があります。

重要なのは次の5つです。

①パーパスと利益を両方追求すること(これらを別々に考えるべきではない)、次の四半期ではなく100年のビジョンを描くこと

②ステイクホルダーにとっての価値創出、各ステイクホルダーへの配慮が(トレードオフではなく)調和的によい方向性に向かうこと(それらは相互依存関係にある)

③ビジネスは市場・競争であるだけでなく社会の一部であるため、社会的課題の解決を担う存在であること。いっきに解決できなくても良い方向性に変化させていくこと、例えば廃棄するのではなく別のものに変化させること

④人間は自己利益の最大化のために短期主義で動いている生き物であると同時に、慈愛をもって他者のために生き問題解決のための言説を考え他者と協働する生き物である。資本主義においていかに他者と協力するかということが重要

⑤倫理とビジネスを融合すること。企業人も約束を守り良い行いをしたいと考えている(企業不祥事は枚挙に暇がないものの)

これら5つの考え方が、ステイクホルダー資本主義に向けてビジネスの在り方を変えるのです。我々世代がビジネスをより良く変えていかねばなりません。

「人新生」時代のサーキュラーエコノミーとは

バレンティーナ カルボネ教授は、「人新生におけるサーキュラーエコノミーの成功をいかに説明するか?-その理論枠組み」をテーマとして、人新生の時代におけるサーキュラーエコノミーについて、次の2つの問いを示して議論しました。

①欧州の政治やビジネス、学術の領域においてサーキュラーエコノミーはどのように語られているのか

②サステナビリティ推進に向けてサーキュラーエコノミーがもつ可能性とは何か

人新生と名付けられた現代は、人間活動が地球環境に多大な影響を与えるようになった時代だとされます。プラ問題、干ばつ、森林火災、氷河融解による海水面の上昇、パンデミックなど、単一の解決策では解決できない、複雑で、グローバルな課題が多く起きています。世界人口が増え、エネルギー(とくに化石燃料)を多量に使用するようになったことでCO2排出量が増え、気候変動を引き起こしました。

19世紀の経済学者たちが天然資源とは無限で無尽蔵に入手可能なものだと捉えていたように、私たちはこれまでリニア経済の中で資源からモノをつくり消費し廃棄してきました。ここへきて資本新世への転換、サーキュラーエコノミーが注目を集めてきました。

こうした事実を拒絶する立場、もう既に限界を超えていて滅亡に向かっているとする立場、グリーンなビジネスであれば成長し続けられるとする立場(ポーターおよびクラマーが提唱したCSVもこの立場)、新技術・発明が問題を解決するとする立場(テスラ社による大規模工場やブロックチェーンの活用など)、草の根のコミュニティによるイノベーションが解決策となるという立場がありますが、サーキュラーエコノミーはこれらいずれの立場にもなじむ、対話することが可能なものだと考えられます。

今後サステナビリティを推進するために、行きすぎた消費を改め、市場や技術よりも教育・倫理・コミュニティ組織を重視し、コミュニティでうまれた取り組みを普及させていくこと、共有財のための法整備を進めることが求められます。

サーキュラーエコノミーの新たなアクションプラン

マリュット ハンノネン氏は、「サーキュラーエコノミーの新たなアクションプラン」をテーマとして、EUの政策と取り組み、その背景にある考え方を紹介しました。

サーキュラーエコノミーは環境のみならずビジネスにかかわる、大きなチャレンジです。EUは経済成長のための過剰な自然資源の消費に危機意識をもち、2019年12月に「グリーンディール」を採択しました。これは2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにして、脱炭素と経済成長の両立を図るとするものです。

このゴール達成のためにサーキュラーエコノミーは必要不可欠です。2020年初頭より法整備・関連政策のパッケージ化が進められ、極めて短期間のうちにEU サーキュラーエコノミーアクションプランとして様々な分野で取り組みが始まりました。

商品の製造・消費の方法を変えるための認証ラベルやデジタルパスポート、プラスチック・繊維・電子機器・バッテリーおよび車輌・建築・食品などのバリューチェーンにおける廃棄量削減やリサイクルの促進、EUに加えグローバルレベルでの国際合意や連携の促進、など。

サーキュラーエコノミーによって新たな価値、マーケット、雇用、知見の創造が可能となり、研究者やビジネス、政策立案者などあらゆるステイクホルダーが取り組む必要があります。

「やってみなはれ」精神でサステナビリティ経営を推進

福本ともみ氏は、「『水と生きる』企業の循環型社会への取り組み」をテーマとして、サントリーホールディングス社がサステナビリティ経営をどのように捉えサーキュラーエコノミーに取り組んでいるのか、その考え方と具体的取り組みを紹介しました。

同社では1899年の創業以来、事業をドライブしていくチャレンジ精神「やってみなはれ」と、事業を支えるあらゆるステイクホルダーとともに成長していく「利益三分主義(取引先・消費者・社会)」を大切に実践してきました。

利益三分主義には、戦前の地域における診療所設置や、高度経済成長期に心の豊かさを追求した文化・芸術支援、90年代以降の環境問題への取り組みなど、その時代が直面していた社会的課題への取り組みも含まれています。

こうした経緯も踏まえて現在は「人と自然と響き合う」を使命とし「水と生きる」を企業理念すなわち存在理由として、サステナビリティ経営を推進しています。2019年にはサントリーグループ・サステナビリティ・ビジョンを策定し、人や社会へ与えるインパクトを考慮のうえ7つのテーマを選定しました。

自然の循環の一部を使わせてもらっているとの考え方のもと、水を無駄なく使うこと、きれいにして自然に戻すこと、自然が持続可能であるための人材育成プログラム「水育(みずいく)」、工場でくみ上げる地下水の2倍以上の水を工場の水源涵養エリア(森)で育むといった取り組みを行っています。

またプラスチック汚染問題解決のために、リサイクル素材/植物由来素材100%達成のための進捗管理、消費者・ペットボトル回収を担う自治体・PETリサイクル技術開発を行うメーカーとのパートナーシップ推進、使用済みプラスチックの再資源化を目的とした共同出資会社の立ち上げなどの取り組みを行っていることが報告されました。

公正で合理的なコスト分配のしくみが必要

本セッションでは、佐藤泉弁護士(佐藤泉法律事務所)、ミシェル ジョン教授(オーストラリア、カーテン大学)、岡田正大教授(慶應義塾大学大学院)が登壇し、キーノートスピーカーのマリュット ハンノネン氏および福本ともみ氏とともに、キーノートスピーチも踏まえて活発な議論が行われました。

岡田教授からは「政策・システム・戦略は期待通りの成果を挙げることができてきたか」「できたところではステイクホルダーの行動がどのように変化し、できなかったところでは何がハードルとなっているか」という問いが示されました。

これについて、欧州では2015年のスタート以来サーキュラーエコノミー分野において5%/年ずつ成長していること、これは期待通りではないとはいえ気候変動対策の必要性が消費者にも強く認識されていたり、(リサイクルコストや運送費を事業者が負担するなど)コスト分配のしくみづくりがうまくいっていることが背景にあることが指摘されました。

日本では大企業がいち早く対応を始めているものの、回収コストが大きくそれを地方自治体が負担しているのが現状であるため、今後は公正かつ合理的なコスト分配のしくみをつくる必要があります。また回収して再利用する産業への資金的・政策的支援も必要であることが指摘されました。

また消費者だけでなく投資家を惹きつけようとして「グリーンウォッシュ」を行う企業が存在していること、これは株価にも影響を与えるため財務的にも環境配慮型企業であることの価値が重要になっていることが指摘されました。

さらには廃棄物の処分方法について、焼却・埋め立て・リサイクルなどの割合は国土面積や国民意識、法制度などを背景に異なっており、一元的に比較することは適切ではないことが指摘されました。

例えばオーストラリアやニュージーランドでは、焼却処分による肺疾患を近隣住民が恐れているうえ、国土面積が大きいために埋め立て処分が行われているといいます。日本は国土が狭く埋め立て処分には限界があるため、焼却技術が発展し、リサイクルも進んできました。

しかし併せて国民の安全・安心を求めるレベルが高いゆえに、過剰包装・商品の過剰スペックにつながっています。東南アジアでは、きちんと管理されていない埋め立て地域から、大雨や台風の際にプラゴミなどの廃棄物が川に流出しそれが海洋汚染を招いていることが問題となっているといいます。

サーキュラーエコノミー推進のためには、各種ステイクホルダーの観点・抱えている課題を総括して判断しなければならないことが指摘されました。