広葉樹が握る次世代の価値(2)

日本の森林の半分を占めるにも関わらず、多様であるがゆえに活用が難しい広葉樹。岐阜県飛騨市は、その広葉樹を中心としたまちづくりに、あえて挑戦しています。その核となる「ヒダクマ」の織りなす価値創造の形とは。(中畑 陽一)

■ヒダクマとは何か

当時飛騨市役所企画課だった竹田慎二氏が、株式会社トビムシの松本剛氏(現ヒダクマ代表取締役)、株式会社ロフトワークの林千晶氏(現ヒダクマ取締役会長)らとつながり、2015年に3者合弁で「株式会社飛騨の森でクマは踊る」通称「ヒダクマ」がスタートしました。

大きな課題は、広葉樹を苦労して育てても、90%以上が付加価値が低いまま飛騨市の外に流れてしまう事でした。育てるべき木を見極めて残しながら、飛騨市に多い残りの「小径木」の価値をいかに高めるのか、そこにプロジェクトの成否がかかっています。

飛騨の広葉樹の森

そこで「ヒダクマ」は、木材加工設備や広葉樹材のショールーム、宿泊設備、多様な人々が集い、木材の価値創造を実践できる場等の複合機能を持った「FabCafe Hida」を、町の中心部につくりました。林業のプロ、まちづくりのプロ、新進気鋭のクリエイター等がここを「ベースキャンプ」に、地域の木材を活かしたオフィス空間や家具のプロデュース等を行っています。さらにヒダクマは、実際に森や製材所、工房などの「現場」とクリエイターをつなぐことで、そのプロセスから紡ぎだされるオンリーワンの体験と出会いをアシストします。

ヒダクマの取り組みは、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL京都)の内装プロジェクトや、パタゴニアの新商品カラトリ―(食具)のプロデュースなど、他にはない多くのイノベーティブなプロダクトの創造にもつながっています。

ソニーコンピュータサイエンス研究所(撮影:田中 陽介氏)

「場づくり」から「まちづくり」へ

しかし、こういった多層的な構造やストーリーを理解してもらうには時間がかかります。第3セクターという立ち位置もあり、当初は市民から「どうしてカフェなんかつくるのか」というような意見もあったそうです。

それでも新しく飛騨市長に就任した都竹淳也氏の後押しもあり、徐々にプロジェクトは軌道に乗り始めます。シンクタンク機能としての円卓会議を、2020年に発展的にコンソーシアムとしたほか、木材の用途を創出する場をつくるなど、飛騨市から流通をつくっていく取り組みを開始。これには、隣の高山市の家具メーカーも参画し、地域の垣根を超えた輪が広がっています。こうして全国的にも例を見ない広葉樹の活用を川上(素材生産者など)・川中(製材事業者など)・川下(木製品製造など)が一体となった「まちづくり」が進んでいます。

ヒダクマの価値とは何か

ヒダクマは、ビジネス化が困難と言われる広葉樹の世界で、事業として軌道に乗せる事に成功していますが、ヒダクマの創造している価値は、実に多様です。ヒダクマ自体の従業員の3分の2が移住者であることに加え、関係人口の創出、メディアでの露出、木材の付加価値の創造と地域での価値循環、そしてその中で生まれたイノベーションに挑戦する前向きな気持ちは幾重にも広がっています。何より、その根幹には社名にもあるように、「森との共生」への思いがあります。

FabCafe Hidaでのワークショップ

竹田氏はヒダクマに期待するのは10億円、20億円といった売上を上げることではない。これまでにないつながりが創造され、外部からの刺激を呼び込む。これは地域にとってプライスレス。こうしたスタイルを続けてほしい」と語っています。

もっとも、ヒダクマの松本氏は事業である限りは売上と利益がまずは重要であると率直に語っています。それが地域のさらなる価値創造と循環、森との共生を実現するための原資になるからです。「飛騨は飛騨のとんがったところを磨き続ける」そう語る松本氏は、しっかりとこの地に根を張り、森と人との価値の生態系を紡ぐ守り人のようでした。