「トランジション・ファイナンス」は、低炭素経済社会に移行(トランジション)するためのプロジェクトを資金使途とするファイナンスである。日本では日本郵船など海運産業が先行している。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

LNG燃料自動車船のイメージ 写真:LNEWS

2020年12月の政府「2050年カーボンニュートラルの実現に向けたグリーン成長戦略」における「トランジション・ファイナンス」の基本的考え方は次の3点である。

1.「トランジション・ファイナンス」は、二酸化炭素排出量等の観点からグリーン・ボンドの発行基準を満たさないものの、低炭素経済社会に移行(トランジション)するためのプロジェクトを資金使途とするファイナンスである。

2.「グリーン」な活動か、「グリーンではない」活動か、の二元論では、企業の着実な低炭素移行の取組は評価されない恐れがある。

3.国際資本市場協会(ICMA)の「トランジション・ファイナンスに関する原則」を踏まえ、日本としての基本指針や、その実施に向け、一足飛びでは脱炭素化できない多排出産業向けロードマップ等を策定する。

ロードマップ対象産業分野は、エネルギー系の「電力」「ガス」「石油」、素材系の「鉄鋼」「セメント」「化学」「紙・パルプ」、輸送系の「自動車」「海運」「航空」の10分野だ。

2021年度は、鉄鋼(10月公表)、セメント、電力、ガス、石油、紙・パルプ分野で策定の予定である。

2021年7月経済産業省は、トランジション・ファイナンスによる資金調達の好事例を積み上げ、事例集を発信することで黎明期にあるトランジション・ファイナンスの市場形成につなげることを目的とした「トランジション・ファイナンスモデル事業」の選定を開始した。

モデル事例となる案件に対しては、外部評価機関のコストの9割が支援される。

現在、先行してロードマップを改訂中の国土交通省が管轄する海運産業の日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社がモデル事業に認定されている。

日本郵船は2021年7月、脱炭素に向けたトランジションボンド(移行債)を200億円発行すると発表した。脱炭素戦略を前提とした移行債の発行は国内で初。海運業界としては世界でも初めてとなる。調達した資金は、液化天然ガス(LNG)燃料の自動車船の購入費用に充てる。

商船三井は9月、液化天然ガス(LNG)を燃料とするフェリー(さんふらわ)2隻建造向けに「トランジション・ローン」による資金調達契約を日本政策投資銀行、三井住友信託銀行、三井住友銀行などと締結した。融資額は未開示である。

川崎汽船は同月「トランジション・リンク・ローン」で、みずほ銀行、日本政策投資銀行、三井住友信託銀行などから1100億円を調達し、LNGを燃料とした自動車専用船の購入代金に充てると発表している。