【連載】:ESGアクティビズム最前線(3)

ESG投資の主流化が進むにつれ「ステークホルダーとの対話」の重要性はこれまで以上に高まっている。企業と面会を重ねる米国の投資家からは「我々は企業に前向きな変化をもたらせている」と自信に満ちた声も聞かれる。いっぽう、ブランド価値を守りたい企業と企業活動による「負」の影響を指摘するステークホルダーの対立が鮮明になる事例も目立つようになってきた。(松木 耕)

「今日が不当な勾留の900日目だなんて信じられません。支援者なしにここまで来れませんでした。今日私は溢れんばかりの愛に包まれ、より生気に溢れ決意を固めています。深く感謝しています。正義が訪れることを約束します――。」

2022年1月22日、こうツイートしたのは人権派として知られるスティーブン・ドンジガー弁護士だ。同氏は米石油大手シェブロンによる環境汚染被害を受けたエクアドルの先住民が同社を相手取った訴訟で、先住民側の弁護を務めた。

シェブロンのガソリンスタンド @Derwin Edwards

しかしドンジガー氏は21年10月、一連の法廷闘争で証拠提出を控えたとして法廷侮辱罪で実刑6ヶ月の判決を受け、弁護士資格を剥奪された。同12月に保釈されたが、現在(22年1月時点)も自宅勾留を強いられている。この騒動の長期化で投資家たちもシェブロンに厳しい目を向けている。

米シアトルに拠点を置く資産運用会社のニューグラウンド・ソーシャル・インベストメント社 (NSI)は同社のガバナンスを問題視し、定款変更を求めて下記の株主提案2つを提出した。

1) 可能な限り取締役会の議長に社外取締役を登用すること
2) 発行済株式10%を保有する株主に臨時総会の招集権限を与えること 

NSIは株主向けのキャンペーン動画に俳優のスーザン・サランドン氏を起用。「我々の共通の敵は気候変動と公害で、人権弁護士ではありません」とドンジガー氏の状況に触れ、議案への賛同を求めた。21年5月の総会では株主の賛成比率は2案とも3割前後に留まったが、著名人も加わった株主キャンペーンは大きな話題を呼んだ。

シェブロンは2021年、他のNGOなどによる気候変動に関する株主提案にも直面した。世界的な「脱炭素」の流れの中で、石炭・石油関連企業へのまなざしは日に日に厳しくなってきた。ESGアクティビストに囲まれた同社は、ブランド価値を守るために必死の攻防を余儀なくされた。

米モーニング・コンサルト社とアドインパクト社の調査によると20年6月から21年8月の期間、米国で石油大手4社(シェブロン・英BP・米エクソンモービル・英シェル)が放送したTV広告のうち、シェブロンによる広告は67%を占めた。また、同社の広告の8割でサステナビリティに関する言葉が使用されたという。

同社が「アクティビスト対策」に本格的に乗り出したという話もある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは21年9月、シェブロン経営陣がエクソンモービルの取締役交代劇を主導した新興ファンド・エンジンNo.1の代表と会談していたと報じた。

このように企業側の対策は進むが、実態のない「ウォッシュ」は厳しい非難の対象になる。「企業が早期にステークホルダーの声に耳を傾ければ、対策コストも低くなる」との指摘も多く聞かれる。企業と投資家の対話が比較的活発な米国に限らず、日本でも企業の「社会的価値の向上」に繋がる対話の増加が望まれる。