トヨタ財団は2月22日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「第6期(2021年度)トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」第2回を実施した。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的だ。第2回は問題解決の「テーマ選定」を進めるとともに、現状把握のポイントを紹介した。(オルタナ副編集長=吉田広子)
トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催。NPOが抱える組織上の問題点を改善し、社会的課題の解決を後押しする。第6期は全国から9団体がオンライン参加している。
トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなり、参加団体は約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていく。
不登校児や外国ルーツ児童を取り残さない
カイケツに参加する稲葉祐一朗さんは2016年9月から、栃木県小山市で「小山フリースクールおるたの家」を運営している。一軒家を使って、学校に行かない子どもたちにとって居心地のよい空間作りに取り組んできた。
同じ小山市で外国籍・外国ルーツ児童の高校進学ガイダンス事業を行ってきた佐藤孝俊さんらとともに、互いの強みを生かしたキャリア教育事業「ビジョンスクール」を立ち上げることになった。
小山市は外国人集住地域で、全人口のうち外国人が4%を占める。一方で、日本の高校進学システムについての基本的理解がないまま受験年齢を迎える外国籍・外国ルーツ児童が少なくないという。
そこで、どあのぶは、外国籍・外国ルーツ児童や日本人を含む不登校児童が将来のビジョンを自ら前向きに考え、夢を持てる社会を実現することをミッションに掲げ、2022年度中の事業開始とNPO法人どあのぶの設立を目指す。
稲葉さんは「そもそも一般的に就職活動に苦しむ子たちが多い。なかでも、不登校児や、言語の壁がある外国ルーツの子どもたちは、うまく就職のレールに乗ることができず、ケアをしなければいけない存在だ。取り残すということは、社会の損失にもつながる。実情にあった学校教育やキャリア教育の再構築が必要だ」と話す。
佐藤さんは、「NPO立ち上げにあたり、やりたいことはたくさんあるが、一つの法人としてのあり方を模索し、事業を整理していきたい」という思いから、カイケツに参加した。
担当する鈴木直人講師(元日野自動車TQM推進室室長)は、「トヨタの問題解決手法は、基本的に既存事業の改善に使うものだが、その手法を新規事業の立ち上げにも生かすことはできる。例えば、業務プロセスを整理するガントチャートを作成すれば、計画と実際のギャップが『見える化』される。計画の実行に役立つだけではなく、その先の問題解決にもつながっていく」とアドバイスした。
「現状把握」のポイントは
講座の後半では、「テーマ選定」の次のステップ「現状把握」に向けて、中野昭男講師(のぞみ経営研究所代表)がポイントを紹介した。
中野講師は、「現状把握とは、現状をデータで表すこと。現状→目標→改善成果といったデータの連鎖が大切なので、まずはデータで考える習慣を付けてほしい」と話す。加えて、現状把握の前に、正しく「あるべき姿」を描くことの重要性も説く。
「『問題』とは、『あるべき姿』と『現状』のギャップ。このギャップを解消することが問題解決につながる。そもそもこの『あるべき姿』が揺らぐと、ギャップが大きくなったり、小さくなったりしてしまう。だからこそ、現状把握の前に『あるべき姿』を正しく描いておく必要がある」(中野講師)
NPOが抱える問題で多いのは、代表の業務負担だ。NPOは常勤スタッフの人数が限られている場合が多く、団体を設立した代表者本人に業務が集中する傾向がある。
現状把握のステップでは、この業務の負担をデータで示す。まず全員の業務時間を把握し、何の業務に時間を割いているかを記録していく。例えば、資料作成に月33時間使っていたとしたら、何の資料に時間がかかっているのかを細分化して把握する。そのなかでも重要な業務を選定して、作業時間削減の目標を設定する。
目標はできるだけ数値で表し、「何を(項目)」「いつまでに(期日)」「どれだけ(目標値)」を明確にする。
「問題の解決には、関係者を巻き込み、全員参加で取り組むことが大切。コミュニケーションも活発になり、職場の良い風土づくりにもなる」(中野講師)
参加者からは「自分が感じる問題にフォーカスしていたが、客観的な視点が重要なことに気付いた」「数値化の重要性を再認識した」「これから可視化していくなかで、どんな気付きが得られるかが楽しみ」といった声が寄せられた。