トヨタ財団は1月19日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「第6期(2021年度)トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開講した。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的だ。全国から9団体が集まり、組織のビジョンや困りごとを共有した。(オルタナ副編集長=吉田広子)
「トヨタの問題解決の原点は豊田自動織機にある。糸が一本でも切れたら自ら止まり、悪いものはつくらない。異常が発生したとき、すぐに改善を考える――。そうした積み重ねが、水素ガスで走る排気ガスの出ない自動車『ミライ』にもつながり、改善(問題解決)の連続が今日のトヨタを形づくっている」
こう話すのは、トヨタ自動車で長年品質管理に携わってきた古谷健夫講師(クオリティ・クリエイション代表取締役)だ。
「『品質管理』とはマネジメントそのもの。品質管理は工業分野だけではなく、『普遍的で効果的な仕事の基本』であり、NPOの活動にもあてはまる。『カイケツ』の講座を通じて、NPOが抱える問題に対して、自らの経験や能力を最大限発揮し、周囲の関係者と連携しながら、『問題』を『解決』していく一連のプロセスを体感してもらいたい」(古谷講師)
トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催。NPOが抱える組織上の問題点を改善し、社会的課題の解決を後押しする。
トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなる。
「カイケツ」では、約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていく。少人数のグループワークが中心で、NPO同士横のつながりもできるのが特徴だ。
問題解決の「テーマ」をどう選定するか
問題解決の第1ステップとして、参加団体はまず解決したい問題のテーマの選定に取り組む。
テーマ選定では、普段感じている「困りごと」を考え付く限り挙げ、絞り込みを行い、最終的に「正式テーマ名」を設定する。
鈴木直人講師(元日野自動車TQM推進室室長)は、テーマ選定のコツを次のように説明する。
・「現状」と「あるべき姿」にしてみる
「問題」とは「現状」と「あるべき姿」のギャップのこと。「あるべき姿」によって、問題だったり問題でなかったりする場合がある。例えば、クラス平均50点の試験で、自分が80点だったとする。一見問題がないように見えるが、0点と100点が同数であれば平均点が50点になるので、80点が必ずしも良い結果とは限らない。
・必ず「他責」ではなく「自責」で考える
この場合の「自責」とは、自分が果たすべき役割を意味し、自分の責任で変えられることを意味する。「あの部署がちゃんとやってくれれば」といった話は盛り上がるが、改善にはつながらない。
・サイズに合ったテーマを設定する
「法制度を変える」は大きすぎ、「書類を整理する」は解決できるがうれしくない。
・テーマの絞り込み
「重要度」「緊急度」「効果」「活動再開」「メンバー巻き込み」の5つの視点で総合的に評価すると、優先順位が付けやすくなる。
・正式テーマ名を設定する
「○○における、△△の□□化(例:支援対象者登録業務における、重複登録の撲滅)」といった形にすると、どんな問題を解決したいのかが明確になる。
中野昭男講師(のぞみ経営研究所代表)は、テーマ選定にあたり「『それが起きたことでどんな問題が起きたのか』というように、原因と結果(問題)を分けて考えることが重要」と話す。
例えば、「NPOの理念が共有されていない」と考えたとき、「共有されていない」ことが問題なのではなく、「共有されないことで、何が起きているのか」といった視点でとらえることが必要だという。
外国人と「協創」する社会へ
カイケツに参加する特定非営利活動法人アジア人文文化交流促進協会(JII、東京・目黒)は、多様性を生かした文化共生社会の実現に取り組む。外国人住民がスムーズに日本社会に馴染み、日本人住民との相互理解を深める場づくりなど行う。
その一つが、2019年に立ち上げた「おとなりさん・ファミリーフレンド・プログラム」(OFP)だ。地域に住むおとなりさん(日本人ボランティア)とペアを組み、日本での生活になじみやすくするための支援を行う。
JIIのヤン・ミャオ理事・事務局長は「日本で暮らす外国人が増えているが、戸惑いや困りごとがたくさんある。一方で、何に困っているか分かりにくく、社会でもあまり認知されていない。外国人の『情報格差』や『孤立』といった問題があるなか、だれかに聞けばすぐ解決することもある。そこで、OFPを立ち上げた」と語る。
OFPには現在おとなりさん(日本人ボランティア)200人以上、参加者(外国人)約100人が登録され、これまでに60組ほどのペアができた。ヤンさんによると、参加者の多くは日本企業で働く20―30代で、会社以外の人間関係がなく、社会になじめていないという。
「あまり広報していないにもかかわらず、日本人ボランティアの登録は増えており、関心の高さを伺える。今後、より多くの受け入れ体制を整えるため、運営業務の効率化を図る必要があると考え、カイケツへの参加を決めた」(ヤンさん)
ヤンさんは「開かれた社会にしていかなければ、日本は新しい価値やアイデアを取り込めなくなってしまう。外国人と『共生』する社会から、外国人と『協創』できる社会にしていきたい」と意気込んだ。