「脱ロシア」、欧米企業の迅速対応の背景にNGO

ウクライナ侵攻に伴う企業の「脱ロシア」で、日本と欧米企業のスピード感の違いが浮き彫りになった。海外企業はESGや人権の危機対応を総じて迅速に進めた一方で、日本企業の動きはワンテンポ遅れた。その背景にはNGOの存在もある。(オルタナS編集長=池田 真隆)

東ヨーロッパに位置するウクライナ

ロシアのウクライナ侵攻による企業の「脱ロシア」の動きは、米ブリンケン国務長官がモーゼの「出エジプト」になぞらえて「エクソダス」と呼び、この呼称が定着した。

2月24日の侵攻を受けて真っ先に動いたのは、物流大手の米フェデックスと国際貨物航空の米UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)だ。わずか3日後の27日にロシア事業の一時撤退を表明した。

これを皮切りに、マイクロソフト、ナイキ、グーグル、イケアなどグローバル企業が続々と続いた。

判断が数日遅れたファーストリテイリング

米エール大学経営大学院の調査では3月9日時点で、ロシアでの事業を撤退や縮小した企業数は300社を超えた。通貨ルーブルの暴落と、ロシアでの事業規模が小さいこともあったが、やはり「戦争による人権侵害」が最大の理由だ。

3月1日にロシアでの販売を中止したアップルは、「暴力に苦しんでいる人とともにある。難民を支援するためにできる限りのことを行っていく」と声明を発表。米カード最大手VISA(ビザ)のアル・ケリーCEOは「受け入れがたい事態により、行動を起こさざるを得なくなった」とロシアの行動を批判した。

一方、日本企業の脱ロシアの理由では、人権や戦争反対のメッセージは薄い。トヨタ自動車はサンクトペテルブルクの工場の稼働と完成車の輸入を停止したが、当初から「供給問題のため」と説明していた。

クレジットカード国内大手ジェーシービーは政府の制裁内容をもとに3月8日にロシアでの事業停止を決めた。最大手の米ビザと2位のマスターカードが事業停止を決めてから3日後のことだった。

SNSの存在感も大きい。実はコカ・コーラ、マクドナルド、スターバックスもロシア撤退の判断が数日遅れた。その間にSNSで「不買運動」が起き始めたため、慌ててロシア撤退を決めた感がある。

ロシアで「ユニクロ」欧州最多となる50店舗を運営していたファーストリテイリングも、判断が遅れた。当初は「衣料品は生活必需品なので、店は閉じない」としていたが、3月10日になって急遽、ロシア撤退を発表した。

「投資家とNGOは共通の価値観を共有」

なぜ欧米の企業はESGリスクに素早く対応できるのか。ESG投資研究の第一人者である水口剛・高崎経済大学学長は「企業とNGOの密接な関係」を指摘する。

「欧州は政府、投資家、NGO、経営者が普段から密接にコミュニケーションを取っている。なかでも、投資家とNGOの関係性は強く、共通の価値観を共有する。そのため、企業もESGを重視するようになった」

象徴的な事例は2016年、国際NGOグリーンピース・フランスがネスレの「キットカット」にインドネシアの熱帯雨林を破壊するパーム油が使われていることを問題視して、反対キャンペーンを展開したことだ。

このキャンペーンをきっかけに、グリーンピースと対話の機会を持つようになったネスレはパーム油のトレーサビリティを90%近くに上げた。こうしたプロセスで、ネスレの担当部長とグリーンピースの担当者はお互いのことを親しい者同士が使う「二人称」で呼び合う仲になったという。

サステナビリティ経営に早くから取り組むスウェーデンの家具大手イケアは2011年にCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を置いたが、初代CSOには気候変動対策に取り組む国際NGOクライメート・グループの創始者スティーブ・ハワード氏を迎えた。

ハワード氏やユニリーバのポール・ポールマン前CEOは、欧州のNGO・企業ネットワークの「ウィー・ミーン・ビジネス(WMB)の創設に関わり、英ロンドンを中心に気候問題や人権問題における「情報交換のハブ」になった。

欧州企業が総じてESG意識が高い背景には、NGOとの緊密な関係がある。これにより、企業や投資家はESGリスクへの対応力やスピード感覚が高まった。

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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