■今さら聞けない重要単語:TCFD
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、気候変動が企業や金融機関の財務に与える影響とそれらへの対応策を、投資家に開示する枠組みです。G20(主要20ヵ国・地域)の要請を受けた金融安定理事会(FSB)が、2015年9月に設立しました。
2022年3月25日現在、世界では3,147の企業・機関がTCFDに賛同しています。そのうち758が日本の企業・機関で、国別では世界1位となっています(TCFDコンソーシアム調べ)。
TCFDが要求する開示情報は、次の4点です。
1)ガバナンス:どの様な体制で検討しそれを企業経営に反映しているか。
2)戦略:短期・中期・長期にわたり、企業経営にどの様な影響を与えるか。またそれについてどう考えたか。
3)リスク管理:気候変動リスクについて、どの様に特定、評価し、またそれを低減しようとしているか。
4)指標と目標:リスクと機会の評価について、どの様な指標を用いて判断し、目標への進捗度を評価しているか。
※参考『CSR検定2級テキスト(2022年版)』47ページ
2022年3月23日には、世界最大の機関投資家である年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)が、国内株式の運用を委託している運用機関が選んだ「優れたTCFD開示」を発表。キリンホールディングス、リコー、三菱UFJフィナンシャル・グループ、日立製作所の4社が、以下のようなポイントから高い評価を得ました。
※各社の選定ポイントについては、GIIF発表資料「GPIF の国内株式運用機関が選ぶ「優れた TCFD 開示」を基に、編集部で内容を抜粋・編集
■キリンホールディングス
・TCFD提言に求められる全てを丁寧に開示。毎年の分析の改善・深化が共有され、実効性の高いガバナンスが備わっている。
・リスク管理の考え方、シナリオ分析結果と戦略への反映等を丁寧に説明。SBT1.5℃シナリオに対する投資金額と損益影響まで開示している。
・気候変動による農産物収量へのインパクト、カーボンプライシングの影響評価など、シナリオ分析において定量的な財務インパクトを開示している。
■リコー
・実例を豊富に掲載し、包括的な開示がなされている。
・TCFD推奨の開示項目にとどまらず、気候変動への取り組みの歴史、達成に向けた施策や具体的事例まで開示し、取り組み全般が理解しやすい。
・ガバナンスでは、温室効果ガス削減目標が役員報酬と連動していることを開示。
・財務影響を大・中・小といった形で定量的な要素を含めて分析し、各リスクや機会をわかりやすく説明している。
■三菱UFJフィナンシャル・グループ
・カーボンニュートラル宣言の実現に向けたロードマップを明示し、活動の全体感やタイムラインがわかりやすい。
・「指標と目標・実績」の開示が優れており、機会・リスクの双方をバランスよく開示している。
・リスクについては他メガバンクが石炭火力プロジェクトファイナンス残高の開示にとどまる中、コーポレートファイナンスも含めた炭素関連資産も開示している。
■日立製作所
・1.5℃・ 4℃シナリオでの事業環境、リスク、機会が詳細に定義。インターナル・カーボン・プライシングをはじめ、脱炭素に向けた先進的な目標を掲げている。
・3年ごとに更新される環境行動計画の進捗管理など、実効性の評価が可能な開示となっている。
・事業単位にブレークダウンしたシナリオ分析など、全4項目に踏み込んだ内容が多い。分析結果を戦略的意思決定に紐づけることが確認でき、投資家の判断に資する。
TCFDは気候関連の情報開示のグローバルスタンダードとなっており、英国ではTCFDに沿った開示を義務化。日本では22年4月に始動したプライム市場も、上場企業に対してTCFDに沿った開示を求めています。
TCFDが存在感を増す背景には、企業や金融機関にとって気候変動への対応が必要不可欠になっていることがあります。短期的な利益追求ではなく、長期的な視点で脱炭素をはじめとするサステナビリティに貢献しながら、ビジネスを成長させることが重要です。
こうした取り組みに力を入れていることをTCFDの枠組みを利用して投資家に発信し、新たな投資を呼び込むことが求められています。