ーお金が回っていく仕組みを変えるー

岸田政権が「新しい資本主義」を打ち出し、その実現本部を立ち上げている。SIMI(*1)では、社会的インパクトをキーワードに2016年から活動を続けるなかで、インパクト投資の世界に出会い、国内外でこれを進める関係者と意見交換を進めてきた。今回は、インパクト投資から見た新しい資本主義の姿について考える2回目として、私たち一人一人の具体的な行動変容のあり方について考えてみたい。(ブルーマーブルジャパン代表取締役/SIMI代表理事=今田克司)

「善を生み出す力」への意識改革が必要だ

前回述べたように、インパクト投資が社会を変えるムーブメントであり、私たちすべてを「新しい資本主義」へ向かわせるものであるという根源的な理解を進め、実践に移すためには、具体的になにをどうすればよいのだろうか。

前回につづき、SIMIで運営している、インパクト投資やサステナブル・ファイナンスに関する海外発の示唆に富む資料を日本語訳(または抄訳)とともに紹介するサイト、グローバル・リソース・センター(*2)から、今回はグローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)の資料をいくつか紹介してみよう。

(1)知見の共有によって社会を前に進める

『インパクト投資の中核的な特徴』(グローバル・インパクト投資ネットワーク:GIIN)

GIINは、インパクト投資の中核的な特徴として、①投資による経済的リターンと並行して、ポジティブな社会的・環境的インパクトの創出に意図的に貢献する、②エビデンスとインパクトに関するデータに基づいた投資デザインを採用する、③インパクト実績を管理する、の3点に加え、4点目に「インパクト投資分野の成長に貢献する」をあげている。

「より多くの投資家がインパクト投資を効果的に実施できるよう行動を起こす」という文言も見られる。これはすなわち、インパクト投資の実践者が、金融関係者全体やより広く社会一般に向かって、インパクト投資の実例を示すことによって、あとに続く者を増やす役割を担うべきであるというメッセージになっている。

「行動を起こす」ことがインパクト投資の中核的な特徴に入っていることは、インパクト投資がムーブメントであることを端的に示している。

具体的には、これは「透明性をもって伝える」や「学びやエビデンス、データは正のものも負のものを含め共有する」など、インパクト投資から得られた知見を共有するということを意味する。

企業が規制によらず、企業活動から得られた情報を公開するというのは、いわゆる企業秘密の観点から言っても、やすやすとできるものではないという常識が世の中に存在する。

しかし、投資や企業の行動によってどのような正負のインパクトが生じたのか、そしてそれはどのような体制やマネジメントによって起こったのかを共有することによって、学びが個社から社会に波及し、それによってインパクト投資が前に進むという考え方をこれは表している。

(2)お金の持ち主の行動規範を変える

『インパクト投資の未来へのロードマップ 〜 金融市場を変革する』(グローバル・インパクト投資ネットワーク:GIIN)

GIINは、2018年に出された2030年までのインパクト投資のロードマップにおいて、「金融業界が未来をつくる Force for Good になるという自覚が必要」と述べている。

Force for Good、すなわち「善を生み出す力」であり、金融が一定の価値観をもって社会の中に存在しなければならないという意識改革の呼びかけになっている。

SDGs(持続可能な開発目標)の考え方が定着しつつある日本においても、「持続可能性」、「公正」、「包摂性」など、ここで含意されている一定の価値観は首肯できるものが多いはずだが、それを金融関係者が明確に意識し、働きかけていく主体となるという意識は、まだまだ広く共有されているものではないだろう。

ロードマップでは、①インパクト投資のアイデンティティ強化、②投資行動と投資からの期待を支配するパラダイムを変える、③インパクト投資商品の拡大、④ツールやサービスの開発、⑤教育や訓練機会の強化、⑥政策・規制の拡充という6つの分野における18のアクションが示されている。

その中で、2番目の「パラダイムを変える」は特に「新しい資本主義」との関係において注目すべきテーマである。この項目には、「広範なグローバル・キャンペーンを展開し、社会における資本の役割についての考え方を再構築する」という記述が見られ、これは、「2020年頃まで」に達成すべき項目になっている。

新型コロナウィルス感染症の影響もあり、ロードマップの通りに物事は進捗していないと考えられるが、この項目がまさに喫緊の課題であることは間違いない。

特に問われているのはアセット・オーナーの考え方のシフトで、社会的インパクトをお金のやりとりの中心に据えるには、資本の持ち主が変わらなければならない。

それによって、アセット運用会社や投資を受ける企業がインパクトを管理・測定し、その結界を報告する新たな方策やイノベーションを競って生み出していくだろうと予測している。さらに、パラダイムを変えるには金融にまつわる様々な法規制な既成概念を更新していくことも必要となる。

金融資本主義においては、グローバルや国単位の様々なルールが金融機関の行動を規定している。受託者責任もその一つで、資金運用者はいかなる場合においても、委託者つまり顧客の利益に反する行動をしてはならない。

ここでいう顧客とは、年金基金でいえば年金制度の加入者や年金受給者のことで、顧客の利益とは通常金銭価値の最大化を意味する。

しかし、委託者が求めるのは利益の最大化に限らず、欧米の年金基金等では、一般市民も含めた制度加入者が戦争や紛争、環境破壊に加担しない公正な投資をより重視する等の例が多く報告されている。

インパクト投資は、財務リターンの最大化を義務付けないという点で受託者責任に反するという意見も聞かれるが、委託者が財務リターンと社会的インパクトの最適化を求めるのであれば、受託者責任に反することにはならない。

このように、インパクト投資は、資本主義のあり様を変える入り口として、様々な考え方や実践のヒントをあらゆる社会の構成員に用意している。

私たちがもつそれぞれの立場から入り口に立ち、「新しい資本主義」について考えを深め、行動を起こしていく。そういうものとして、インパクト投資を理解してみてはどうだろうか。

*1. 一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(https://simi.or.jp)。2016年にマルチセクターのプラットフォームとして活動を開始し、2020年に法人化。

*2. https://simi.or.jp/grc/

SIMIでは、4月28日(木)に、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)のアミット・ボウリ氏と米国インパクト投資連盟のフラン・シーガル氏を迎え、『インパクト投資から見た「新しい資本主義」』特別ウェビナーを開催します(無料。英日同時通訳つき)。ご興味のある方はこちらからお申し込みください。https://newcapitalism2022.peatix.com/