「アップサイクル」という言葉が定着してきた。これまで廃棄されていたものを資源として捉え、新たな価値を持つ製品に生まれ変わらせる手法で、アディダスが海ゴミからつくったランニングシューズは世界で3000万足を売るヒット製品になった。こうした試みは世界規模で進み、限りある資源を有効に使い、ゴミを減らす「サーキュラーエコノミー」(循環経済)として広がりつつある。(オルタナ副編集長=山口勉)

アップサイクルは、既にあるものを使うことによる省資源化や脱炭素、さらにはブランドイメージ向上など、規模が拡大すればサーキュラーエコノミーとして、経済問題や環境問題に果たす役割も大きい。
■増えるアパレル業界のアップサイクル
アップサイクルの草分けとして知られるのは1993年創業の「フライターグ」(スイス・チューリヒ)だ。フライターグ兄弟が中古のトラックの幌(ターポリン)と捨てられる自転車のチューブやシートベルトで手作りした自転車用のメッセンジャーバッグは、ロングセラーのヒット商品となった。
アディダスは、環境保護団体のパーレイ・フォー・ジ・オーシャンズと協働し、海岸などで回収したプラスチックゴミをアップサイクルして生まれた素材「パーレイ・オーシャン・プラスチック」を使用した製品を展開している。同社広報によると、パーレイのランニングシューズは世界で累計3000万足のヒット商品になった。
アウトドアシューズメーカーのキーン(本社・米、オレゴン)は、2007 年から廃棄物をアップサイクルしたシューズ用のソールを開発し、製品に取り入れてきた。
この4月からは、産業廃棄物だったものをアップサイクルした商品を「ハーベストコレクション」として販売を開始した。
車のレザーシートの端材、農作物から出る殻・葉・茎、コーヒーを淹れた後のコーヒーグラウンドといった産業廃棄物をアップサイクルしたシューズやサンダルをはじめ、バッグやアパレルまで幅広いラインアップで展開する。
廃棄物の埋立地は、人為的なメタン排出源として、化石燃料、農業についで 3 番目に大きいものと言われている。キーンが産業廃棄物に着目した理由は、米国における固形廃棄物97%が農業と工業に由来するもので、その約2%しかリサイクルされていないからだという。
キーン・ジャパン広報の種田聖子氏は、「持続可能性を高める取り組みを可視化することは重要だ。他社との協業や、ビジネスの視点を得るヒントにしてもらいたい」と抱負を語った。
■家具や伝統工芸品も
家’s(イエス:富山県高岡市、伊藤昌徳社長)は、循環型アップサイクル家具のサブスクリプションサービス「yes」を展開する。
100年から50年前の使われなくなった家具を引き取り、職人がもう一度使えるように再生する。再生した家具を定額制のサブスクリプションサービスで貸し出す。利用者が求めれば、買い取ることもできる。
テクノラボ(横浜市、林光邦社長)は、海洋ゴミとして廃棄されたプラスチックを材料として、小皿などの伝統工芸品に生まれ変わらせた製品を「ブイ」ブランドとして販売する。
同プロジェクトは、もともとプラスチック製品メーカーだった同社が、自らが日頃扱っているプラスチック素材が海洋ゴミとして社会的に非難の対象となっていることに対し、何とかできないか、と考えたことから始まったという。
一方で、グリーンウォッシュなど、実際の取り組みが本当に社会や環境に良いものなのかを問う視点も厳しさを増している。欧州委員会はこのほど、「循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)」に基づきサステナブルな製品をEUの標準するための新たな政策パッケージを発表した。
これによると、衣類に関して、EUで扱う商品は、より耐久性があり、修理やリサイクルを可能にすることを求める。ファストファッション、繊維廃棄物、売れ残った商品の廃棄に取り組み、社会的権利を尊重して生産が行われるようにするための新しい戦略を提示するとしている。
消費者が製品の環境的な持続可能性についてより良く知り、グリーンウォッシュから保護されるよう、企業には製品に対する説明を求める。欧州では、同基準を満たさない商品の販売ができなくなる可能性もある。
今後はアップサイクルやサーキュラーエコノミーの取り組みも、その内容がより問われることになりそうだ。