ヤンゴンの都市開発に人権リスク、日本企業も加担か

NGO8団体はこのほど、ミャンマー・ヤンゴン市内都市開発事業(通称「Yコンプレックス」)にかかわる東京建物と大和ハウス工業の主要株主101社に対し、要望書を提出した。推定で年間約2億3000円に上る土地賃料がミャンマー国軍の資金源になる恐れがあることから、NGOは両社に責任ある撤退を求めていた。だが、回答を得られなかったため、株主に要望書でエンゲージメントを求めることになったという。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「Yコンプレックス」は、ヤンゴン市内の一等地である軍事博物館の跡地に、大規模複合不動産を建設・運営する開発事業だ。

敷地面積約1万6000平方メートルに、事務所、店舗、ホテル(261室)、サービスアパート(136室)、駐車場をつくる計画だ。2018年8月に着工、2021年に開業予定だったが、政情不安もあって工期が延びている。

特定非営利活動法人メコン・ウォッチ(東京・台東)が公表しているファクトシートなどによると、Yコンプレックスの事業会社は、ミャンマー法人のYコンプレックス社だ。このYコンプレックス社には、東京建物、大和ハウス工業の子会社であるフジタ、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が共同で設立したヤンゴン・ミュージアム・デベロップメント社(YMD)が8割出資している。残り2割は、ミャンマー国軍と関係が深いとされるYTT社が出資する。

掲載されているYコンプレックス事業の枠組み(要望書から引用)

賃貸人はミャンマー国軍の兵站局だ。東京建物と大和ハウス工業から、賃貸人に支払われる土地の賃料は年間約2億3000万円に上り、契約開始から50年間支払われることになるという。

米・英・カナダは賃貸人を制裁対象に

2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが発生し、多くの難民が国外に逃れた。それ以前から、国軍による人権侵害は国際社会で批判されてきた。

米国、英国とカナダは2021 年 12 月、賃貸人である兵站局を制裁対象にした。東京建物と大和ハウス工業は、2021 年 2 月 1 日以降、賃料またはサブリース料を支払っていないことを強調しているが、Yコンプレックス事業の開発計画の見直しは行われていない。NGOらは「支払いを再開すれば国軍の収益になる」と懸念する。

こうした事態を懸念して、NGO8団体は、「ミャンマー国軍による重大な人権侵害に加担する可能性が高い」として、東京建物と大和ハウス工業に繰り返し指摘してきた。だが、両社ともに、人権リスクを避けるための具体的な計画を発表しなかったという。

そこで、主要株主に要望書を提出することになった。

連名で要望書を提出したのは、メコン・ウォッチ、国際環境NGO FoE Japan、Justice For Myanmar、武器取引反対ネットワーク(NAJAT)、アーユス仏教国際協力ネットワーク、日本国際ボランティアセンター(JVC)、アジア太平洋資料センター、ヒューマンライツ・ナウの8団体だ。

要請書は、東京建物および大和ハウス工業の株主に対し、両社に対して直ちにエンゲージメントを行い、両社の事業活動がミャンマー国軍を利することを避けるための措置を講じるように求めている。

特定非営利活動法人メコン・ウォッチの木口由香事務局長は、「土地のサブリースといった間接的なものであっても、兵器を購入するなどが任務の兵站局に賃料が支払われることは、人権侵害に加担するリスクがある。ミャンマーで国軍が権力を掌握したいま、事業を停止してほしい」と訴えた。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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