「ガバナンスの改革に取り組みます」——。企業が不祥事を起こすたびに決まって聞くフレーズだ。コーポレート・ガバナンスとは、企業が組織の目的を追求する上で、健全な意思決定を下し、実施する時の仕組みを指す。ISO26000が定義した「CSRの中核主題」の一つであり、企業価値の形成に大きな役割を果たす。ガバナンスが機能しない原因は何か、そして、どうすれば機能するのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)

ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視する時代になったが、企業不祥事は後を絶たない。ほぼ「毎週」のように企業の謝罪文が世に出ている。

大手外資コンサルのデロイトトーマツコンサルティングは6月16日、同社がコンサルティング契約を結ぶイオンの秘密情報を漏洩したと発表した。DX戦略に関する内部資料をセブン&アイ・ホールディングスに提供していた。

その1週間前の6月10日、クラウドファンディングサイト大手のCAMPFIRE(キャンプファイヤー)は元従業員が警視庁に逮捕されたと発表した。元従業員は2019年8月から11月にかけて会社の口座から約2500万円を横領していた。

組織内で不正が起きる背景には何があるのか、その対応策は何か。オルタナ編集部では2021年4月と11月、ガバナンスに詳しい郷原信郎弁護士にインタビューを行った。その要旨をまとめた。

組織の常識がガバナンスの「邪魔」をする

ガバナンスは一般的に「企業統治」と訳す。しかし、郷原氏は従業員を支配・統治するものではないと指摘した。

「ガバナンスは、企業としての意思決定を健全に行うシステムを指します。単に組織としての形が整っているだけでなく、あらゆる『社会の要請』に応える『広義のコンプライアンス』の観点を踏まえた意思決定が必要です」

実際にこの観点で、ガバナンス機能を正常に働かせている企業は少ないという。その傾向は伝統企業ほど強いと強調した。会社の中に染み付いた「常識」がガバナンスの邪魔をしていると語った。この常識は、長年に渡って形づくられてきたもので、組織内の多くの人が共有している「価値観」でもあるという。

この価値観に捉われてしまい、重要な問題について意思決定を行うときに、本当の意味で適切な意思決定を行うシステムを備えている企業は少ないと話した。

日本企業が抱えるガバナンスの問題点として、社内には明確な上下関係が存在し、下には発言権が与えられていない。社外取締役を加えた取締役会では、社内で決まったことに対して、社外の目から見たご意見を拝聴するだけという組織が多いとも指摘した。

「カビ型」不祥事、日本の伝統企業こそ

企業の不祥事は、「カビ型」と「ムシ型」があるという。「カビ型」とは、組織の利益のために、組織の中で長期間にわたって恒常化し、何らかの広がりをもっている行為を指す。「ムシ型」は個人の利益のために、個人の意思で行われる単発的な行為を指す。

特に発見が難しいのが「カビ型」だ。現場で起きていることが潜在化しているので、見つけづらいのだ。日本の伝統企業こそ、この「カビ型」が起きやすい傾向にあるという。

「重大な不祥事につながるカビ型行為というのは、発生当初はそこまで大きな不正ではなく、『必要悪』という言い訳が成り立つことが多いです。表に出せない状況が続き、それがいつのまにか当然になってしまう。組織に染み付き、容易に除去できなくなります。その後、環境変化によって、社会的にも許されない行為になっていくのです」

カビ型を防ぐには「内部通報」も機能しないと言う。その理由についてこう語った。「カビ型行為の場合、内部通報しても組織の上位者でも決断ができないと予想するので、現場の担当者も内部通報することを諦める傾向にあります。カビ型行為はマスコミへの内部告発や、監督官庁に直接、報告が行ったりするケースが多いです」。

カビ型を防ぐには、「簡単ではない」と前置きし、「どうやって発見するかが重要だ」と強調した。不祥事があると「社長辞任」を求める声があがるが、その企業にとっては社長が辞めただけでは問題の根本的な解決にはならないと郷原氏は語る。

ガバナンスを推進するためには、社会全体で機運を高めていくことも必要だ。一般的に企業は私企業だから、説明責任は自社で決めるべきという論理もある。だが、郷原氏は、「社会的影響力のある企業は社会から説明責任を求められます」とする。

2021年4月、ファーストリテイリングの柳井正会長が決算記者会見で、新疆ウイグルの人権問題について聞かれ、「ノーコメント」と返事をした。翌日には大きく株価が下がり、前日比マイナス3090円となった。

企業はどこまで情報を出すのかという問題もある。だが、国際社会や海外の株主からの要請に応えるという観点からすると、これまで以上の説明責任が必要な時代になっている。