新彊ウイグル問題やミャンマー国軍系企業との取引、開発に伴う先住民の権利侵害など、サプライチェーン上の人権侵害が問題視され、対応しないことによる企業のリスクが高まっている。欧州を中心に人権デューディリジェンス(DD)の義務化が進んでいるが、日本ではようやく経産省が今夏、人権DDに関するガイドラインを策定する予定だ。日本でも人権DDの法制化は進むのか。(オルタナ副編集長=吉田広子)

ベルギー・ブリュッセルで行われた新彊ウイグル問題への抗議活動(2020年7月撮影)

2011年6月に国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、人権DDの実施が企業にも求められるようになった。人権デューディリジェンスとは、サプライチェーンを含めた事業活動の人権侵害リスクを特定・評価し、予防や対策を講じることだ。

企業の事業活動に伴う人権侵害が問題視されるなか、2015年に施行した「英国現代奴隷法」をはじめ、フランス人権デューディリジェンス法(2017年制定)、ドイツサプライチェーン法案(2021年成立)など、各国で法整備が進んできた。欧州委員会も2月、「企業持続可能性デューディリジェンス指令案」を発表した。

米国では、新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働阻止法案」が成立し、6月下旬に施行される。

日本では、経済産業省が今夏、人権DDのガイドラインを策定する予定だ。法整備に向けた具体的な議論は進んでいないものの、萩生田光一経済産業大臣は2月15日の記者会見で「将来的な法律の策定可能性も含めて検討する」と発言。翌16日に開かれた予算委員会第七分科会の答弁で、法制化の可能性について問われ、否定しなかった。

「ODAにも人権尊重が求められる」

UNDP(国連開発計画)は4月、日本企業の人権DDを促進するため、外務省の支援を受け、17カ国で「ビジネスと人権」プロジェクトを立ち上げた。そのローンチイベントとして、UNDPと外務省は6月17日、セミナー「日本企業およびそのサプライヤーに期待される人権デューディリジェンスの現状と今後の展開」を開いた。

冒頭の挨拶で、中谷元・内閣総理大臣補佐官(国際人権問題担当)は、「取引先が拡大をするにつれて、意図しない形で人権侵害を引き起こすリスクが拡大してきている」との認識を示し、「政府調達や政府開発援助(ODA)といった政府主体で実施する経済活動でも、人権尊重に取り組むことを求められ、自民党からも首相に提言が提出されている」と話した。

セミナーに登壇した豊田原・経済産業省大臣官房 ビジネス・人権政策調整室長は、「人権DDの規制が世界的に進んでいることは理解している。各国の措置の予見可能性を高めて、国際協調を進めていきたい。ガイドラインは、国際スタンダードに則ったもの、具体的な方法が分からない企業の声に応えたものを目指す」と説明した。

児童労働問題に取り組んできた認定NPO法人ACEの岩附由香代表は、プレゼンテーションで「The global slavery index(世界奴隷指標)」(ウォークフリー財団、2018年公表)を紹介。同指標によると、日本に輸入されているもので、現代奴隷のリスクが高いトップ5は次の通りだ。

1位 ノートパソコン、パソコン、携帯電話
2位 衣料品
3位 水産物
4位 カカオ
5位 木材

17カ国で「ビジネスと人権」プログラム

UNDPが開始した「人権とビジネス」プロジェクトでは、企業の人権DDの実施を後押しするため、外務省が約7.7億円の資金提供をしている。

対象は、ガーナ、インドネシア、カザフスタン、ケニア、キルギス 、ラオス、メキシコ、モンゴル、モザンビーク、ネパール、パキスタン、ペルー、タイ、チュニジア、トルコ、ウクライナ、ベトナムの17カ国だ。

具体的な取り組みとしては、「B+HR」アカデミーを立ち上げ、日本企業やそのサプライヤーの人権リスクに関するマッピング調査や人権リスクに対応するトレーニングなどを実施する予定だ。

合わせて、13カ国の政府や国家機関に対し、「ビジネスと人権」に関する行動計画や同様の政策を策定できるように支援する。

UNDP「ビジネスと人権」リエゾンオフィサーの佐藤暁子弁護士は、「今回のプロジェクトは、日本企業が指導原則の求める人権尊重責任を果たしながら、責任あるサプライチェーンを通じ、持続可能な社会の実現に貢献するもの。日本と世界17カ国というスケールのもとで、各国・地域の特性に応じた人権リスクの調査と取り組みまで実施するという、これまでにはない、また、UNDPという国連機関の強みを活かすことができるプロジェクトだ」と意義を語る。

「これまで主に本社の人権担当者と話をする機会が多かったが、今回は各国の現地法人やサプライヤーといったステークホルダーとの対話を通じ、新たな学びも多いと感じる。タイ、モザンビーク、ペルー、モンゴル、パキスタンといった国でプロジェクトのローンチイベントを開催し、その国のコンテクストに即した取り組みの重要性を実感しているところ」

「プロジェクトの実施を通じ、ビジネスと人権の取り組みにおける課題についてより一層理解を深め、国連ビジネスと人権作業部会やILO、またJETRO、JICAといったパートナー機関とも連携しながら、実効的な人権デューディリジェンスによるライツホルダーの人権の実現を目指していきたい」と意気込みを語った。