これまで柱材としてしか使われてこなかった国産ヒノキを、企業が壁材として採用するケースが増加している。「国産材=高くて使いにくい」というイメージを払拭すべく、デザイン性や利用面での工夫を高める取り組みを進めてきた結果だ。推進役の1人であるグリーンマム(東京・大田区)の川畑理子社長は、「国産材や認証材利用全体の底上げできる仕組みを作りたい」と話す。(寺町幸枝)


内装の木質化に国産材を活用できるようパネル状に加工し、デザイン性と汎用性を高めた

■「和風っぽさ」が普及のネックに

国産木材のコンサルタントやコーディネーターとして活躍する川畑理子(さとこ)さんが率いるグリーンマムは、10年以上にわたり店舗向け内装用の資材調達や、インテリアデザイナーと製材所をつなぐ仕事に従事してきた。その過程で、業界の構造的な問題と対峙するようになったいう。

「国産材の中でも、特に針葉樹の杉や檜は、栗や楢といった紅葉樹と比べると、使用感に『和風っぽさが強い』という印象が残り、内装で使用されることが少ないのです」

大きな柱材を使う和風建築の家が減る一方で、生産地がある地方では、昔と変わらない建材作りが続けられている。そのため、ニーズのない建材の価格は下がる一方だということに気がついた。

■クリエイターやメーカーと協働で製品化へ

その解決策として、2020年に林野庁が出した「内装木質化等の効果実証事業」という補助金を使い、国産材の販路開拓の起爆剤となる製品作りに着手した。

建物の内装における「木質化」とは、建物の天井、床、壁などの内装や外壁に、木材を用いること。建物そのものを木で作る「木造化」と対の意味で、地球温暖化や循環型経済の文脈でたびたび使われるようになった言葉だ。

製品づくりに取り組むにあたり、3者に声をかけた。島根県立大学の講師でいくつもの木質化プロジェクトを共に手掛けてきた雨上(アメアガル)代表のクリエイティブディレクター・平井俊旭さん、尾鷲(おわせ)ひのきを生産する尾鷲森林組合、サステナブル調達を行っている木材製造メーカであるマルホンだ。

■加工方法の工夫で価値が2倍に

2020年の実証実験では、木質化の材料として需要の減っている尾鷲地域の建材用の角材を選択。一般的な壁材のように研磨するのではなく、あえて角材を「薪割り機」で破断することで、木材の年輪に沿って、割れたその材でしか見ることが出来ない凹凸のあるパネルを製作した。これによりデザイン性と汎用性が確保できた。

需要の下落と共に当時2,000円〜2,500円で取引されていたヒノキは、この新しい加工を施した壁材になり、5,000円〜5,500円の付加価値を持つ製品になった。次の一手として、木材パネルを「ラフデザインパネル」と名付け、2021年度のウッドデザイン賞に応募。見事ソーシャルデザイン部門で受賞する。

受賞がきっかけとなり注目を集めるようになり、デザイン会社の乃村工藝社経由で、一部上場企業の顔となる場所における木質化の担い手として採用されるようになった。

ラフデザインパネルによる、神奈川ダイハツ販売社長室の木質化は、ウッドデザイン賞受賞のきっかけの一つとなった

■製品化に横たわる難題

「既製品のパネルと違い、木材をパネル化する工程そのものが高い付加価値を生む。使用する素材や、調達先についても、お客様のニーズに応えられることが、この製品の大きなウリ」と、川畑さんは話す。顧客にニーズに応え、木材の産地や種類を変えるといったことにも対応できる。

これまでなぜこのような製品が作られてこなかったのだろうか。「ラフなパネル作りは、素材の研磨の度合いの調整を判断するのが難しい。また素材の個体差がありすぎて、仕上がり方を数値化できないという2点から、『面倒』という2文字が製品化を妨げてきた」とマルホンの伊藤さんは話す。

それは同時に、木材を意匠的に見せる発想はユニークだが、業界人の固定概念からすれば非常識だった。しかし、量産が難しかったヒノキの加工も、産地との連携で、機械仕上げと手仕上げのバランスを取り分業化することで、効率化を確保。そのノウハウを溜めていくことで、生産効率を高めることができ、角材のあらたな用途確立に成功した。

■進む国産材利用によるSDGs化表明

「補助金がなかったら、誰も何もやらなかったと思う。面倒なことも、補助金があったことで、みんなが積極的に関わることができた」と川畑さんは断言する。

補助金プロジェクトは、「木質化」が目的であるため、本来木材のパネル化という面倒なプロセスを踏まずとも完成することができたはずだ。だがこの補助金を、業界構造に風穴を開ける製品作りのきっかけにしたのは、関わった関係者全員の思いだ。

「菅前首相のカーボンニュートラル宣言以降、上場企業中心に、国内企業の意識が急激に変化している。SDGsの実践に動いている印象が強く、国産認証材の採用が進んでいる」と話すのは、マルホンの伊藤さんだ。

日本の林業における課題解決と、企業が求める高いデザイン性とサステナビリティを兼ね備えた製品の普及は、まだ始まったばかりだ。

木材コーディネーターのグリーンマム川畑理子社長(左)、島根県立大学の講師の平井 俊旭さん(右)