「脱炭素」株主提案3年で12件、半数が賛成20%超え

この6月に各社が開いた株主総会で、環境NGOと機関投資家が5社に対して9件の株主提案を提出した。気候危機への対策強化を求める株主提案は2020年に始まり、3年間で提案数は累計8社12件にのぼった。いずれも否決されたが、半数が20%を超える賛成を集めており「脱炭素」に対する投資家の関心は着実に高まっている。(オルタナ副編集長・長濱慎)

投資家が企業に「脱炭素」を求める声は着実に高まっている

■3メガバンク、総合商社、エネルギー企業に提案

この3年間で環境NGOらが行ってきた株主提案は、以下の通りだ(カッコ内は賛成率)。

〈2020年〉
●みずほフィナンシャルグループ
・パリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画の開示 (34.5%)

〈2021年〉
●三菱UFJフィナンシャルグループ
・パリ協定の目標に沿った投融資を行うための経営戦略を記載した計画の策定・開示  (22.71%)

●住友商事
・パリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定・開示 ( 20.0%)

〈2022年〉
●三菱商事
・パリ協定目標と整合する中期・短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定・開示 (20.19%)
・新規の重要な資本的支出と2050年温室効果ガス排出実質ゼロ達成目標との整合性評価の開示 (16.22%)

●東京電力ホールディングス
・2050年炭素排出実質ゼロへの移行における資産の耐性の評価報告の開示 (9.55%)

●中部電力
・2050年炭素排出実質ゼロへの移行における資産の耐性の評価報告の開示 (19.9%)

●三井住友フィナンシャルグループ
・パリ協定目標と整合する中期・短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定・開示 (27% 速報値)
・IEAによるネットゼロ排出シナリオとの一貫性のある貸付等 ( 10% 速報値)

●Jパワー
・温室効果ガス排出量削減にかかわる事業計画の策定・公示 ( 25.8%)
・設備投資と温室効果ガス排出量削減目標との整合性にかかわる評価の開示 ( 18.1%)
・報酬方針が温室効果ガス排出量削減目標の達成をどう促進するものかの開示 (18.9%)

(株主提案資料、各社報告書などを基にオルタナ編集部で作成)

■機関投資家が賛成するも「定款変更」が高いハードルに

上記のうち石炭火力大手であるJパワーへの株主提案は、欧州の機関投資家3者(仏アムンディ、英HSBCアセットマネジメント、英マン・グループ)とオーストラリアのNGO・企業責任センター(ACCR)が行った。他の7社への提案は、国内外の環境NGOによるものだ。

2020年のみずほFGの賛成率が34.5%と突出しているのは、議決権行使助言会社の米グラスルイスと米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービス(ISS)が、投資家に「賛成」を奨励した影響が大きい。

実際に「賛成」を表明した中には、北欧最大の機関投資家ノルディア・アセット・マネジメント、デンマークの公的年金AP7、欧州最大の保険会社アリアンツなど、大型の投資家が目立った。

株主提案の後、みずほFGは邦銀ではじめて2050年までの石炭火力フェーズアウト目標(後に40年に変更)を設定、三菱UFJは国際的なイニシアティブであるネット・ゼロ・バンキング・アライアンスに加盟し、他行も追随した。短期・中期的な削減目標がないなどまだ不完全な部分はあるものの、メガバンクは脱炭素への取り組みを始めている。

いずれの株主提案も、定款変更を求めるかたちで行った。「会社の憲法」とされる定款を変えるには3分の2以上の賛成が必要で、ハードルは高い。しかし現行の会社法で株主の声を届けるには、この方法しかない。環境NGOは年1回の株主総会以外にも機会も設けて、引き続き企業と対話を続けていく意向だ。

この3年間で株主提案を行ったNGOは、以下の6団体(メンバーが個人株主として提案を行った団体も含む)。
・気候ネットワーク
・マーケット・フォース
・レインフォレスト・ネットワーク
・350.org Japan
・FoE Japan
・企業責任センター(ACCR)

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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