■【連載】政策起業家とは何者か(13)
前回、ロビー活動は「私益」が出発点であり、政策起業は「公益」が出発点であることが大きな違いだと整理しました。今回は定義の難しい「公益」について考えます。(三井 俊介・NPO法人SET理事長)

「公益」を定義することは非常に難しいのですが、『社会的共通資本』 (岩波新書)が非常に参考になります。
同書では「社会的共通資本」をこう定義しています。
「一つの国ないし特定の地域に住む全ての人々が、豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する」
社会的共通資本は具体的には3つあります。
(1)自然環境(大気、森林、河川、水、土壌など)
(2)社会的インフラストラクチャー(道路、交通機関、上下水道、電力、ガス
(3)制度資本(教育、医療、司法、金融制度など)
統一的なものはなく、「それぞれの国ないし地域の自然的、歴史的、文化的、社会的、経済的、技術的諸要因に依存して、政治的なプロセスを経て決められるもの」としています。
重要なのは、「利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない」という点です。このことが「新ロビー活動」と「政策起業」の大きな違いの一つです。
ソーシャルイノベーションの専門誌「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 01 ソーシャルイノベーションの始め方」ではこのような記載があります。
フィランソロピーが解決しようとしている社会課題のほとんどは、予測不可能で、無数の変数が存在し、対照実験の条件が揃わず、期間を区切った取り組みにそぐわないものだ。
(資本主義的な科学的アプローチ、功利的なアプローチと対立する。)
公教育の改善、若者の育成、コミュニティの組織化、高齢化対策、芸術、政策アドボカシーなど。
市場的な条件に左右されてはならないものが、市場に組み込まれてきたことで社会課題になってきたことが分かります。
そのようなものは市場原理では解決し得ないことから、政策起業が求められていると考えると、政策起業の領域はある程度限定されることが想定できます。
次回は、パブリックアフェアーズやアドボカシーとの違いなども整理していきます。