産業の新陳代謝で「平和と成長」を:高岡 浩三

雑誌オルタナ68号(3月31日発売)では「戦争と平和と資本主義」をテーマに9人の有識者に寄稿頂きました。68号に掲載した記事をオンラインでも掲載します。

元ネスレ日本社長の高岡浩三氏は経済学の権威フィリップ・コトラー氏と分断が加速するグローバル資本主義の問題点を議論していた。平和と経済成長を両立するには、産業の新陳代謝が効果的だと語る。(オルタナS編集長=池田 真隆)

高岡浩三氏
ケイアンドカンパニー代表。元ネスレ
日本社長兼CEO。1983年、神戸大
学経済学部卒。同年、ネスレ日本入社。
2010年11月、ネスレ日本社長兼CE
Oに就任。2020年3月、ネスレ日本
退社。

私は2010年11月から約10年間、ネスレ日本の社長を務めましたが、スイス本社のピーター・ブラベックCEO(当時)ともよく議論しました。同CEOは2007年の「世界経済フォーラム」(ダボス会議)でCSV(共通価値の創造)を発表した人です。

一流の企業経営者は経済学者よりも先に世の中の社会課題を察知して、その課題を自社の戦略に組み込む人を指すのだと、彼らから学びました。課題を発見することはビジネスの機会につながっています。

そもそもブラベック氏がCSVを編み出した背景には、加速する「グローバル資本主義」への自己矛盾がありました。当時から世界人口が100億人に向かうなか、モノありきの市場ではいずれ経済社会のメカニズムが行き詰まることを問題視していました。

コトラーと議論資本主義の課題

ブラベック氏は、CSVの実践は、マーケティング視点からのイノベーションが必要だと強調しました。ネスレではCSVを提唱する以前からイノベーションやリノベーションという言葉がよく使われていたのですが、明確な定義はありませんでした。

ある時、役員会議で両者の定義を尋ねたことがあります。答えは返ってきませんでした。役員の誰も分かっていなかったのです。そこで、会社の了承を得た上で、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のフィリップ・コトラー教授と「イノベーション」と「リノベーション」について定義を考えました。

イノベーションとは、顧客が問題だと気が付いていない新たな問題を解決すること。リノベーションは、顧客がすでに気が付いている既知の問題を解決したり、より効率的にしたりすることと定義付けました。

そのコトラー教授から数年前、ある相談を受けました。それは、分断が進む米国の資本主義をマーケティングの立場から解決できないかというものでした。

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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