世界3大広告賞の一つである「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)」が今年も開催された。エントリー数・参加者数ともに最大級。世界中の優れた作品への評価は、未来のコミュニケーションのトレンドを占ううえでも重要な指標になってくる。今回はカンヌライオンズのSDGs部門の受賞作品を中心に、これからのSDGsコミュニケーションに必要なものや進むべき方向について考えていく。(伊藤 恵・サステナビリティ・プランナー)

真のDE&Iの提示

性別、民族、宗教、国籍、年齢などの違いを認識し、個性を認めあい、さまざまな情報や機会へのアクセスを、公平に保証することにより多様な力を発揮することを目指すDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)。女性の権利拡大や格差是正を訴えるものや、障害者の情報アクセスや活動領域を拡張させるテクノロジーなど、これまでのカンヌライオンズでもDE&Iに関連した受賞作品は数多く存在している。

今年のカンヌライオンズで注目したいのは、このようにDE&Iの重要性が年々増していく中で、世の中でまだ認識があまりされていなかった不平等・不公正に光を当てた作品だ。これから紹介する2つの受賞作品は、真のDE&Iとは何かを私たちに問いかけている。

肌の色の違いによる医療アクセスの不平等に立ち向かう「SEE MY SKIN」

アメリカでは、皮膚がんなど皮膚の病気の症例を検索したときに出てくる有色人種の画像は全体の6%未満だという。それは皮膚科医へ適切なタイミングでの受診を妨げる一因にもなり、結果として黒人やヒスパニック系の皮膚がんなど皮膚の病気での死亡率は25%も高くなっている。

この検索に潜む人種的偏見と医療アクセスの不平等解消を目指したのが、スキンケアブランドのヴァセリンだ。皮膚科医など専門家と連携し、有色人種の症例画像を収集した「SEE MY SKIN」を構築。自分の肌色にあわせた症例の検索の精度を高めた。

さらに患者と医療提供者をつなげるプラットフォームとしての機能も果たし、公正な医療ケアへのアクセスも設計。「世界中の全ての人の肌を癒す。全ての人が前向きに人生を楽しめるように」をブランドパーパスとして掲げるヴァセリンが、そのパーパスを体現することで、いま世の中に存在している不平等・不公正のひとつのかたちに一石を投じた作品だ。

生理のタブーにトランスジェンダーの立場から切りこむ「CYCLE」

これまでカンヌライオンズでは、生理に対する偏見やタブー視する風潮を覆すような啓蒙キャンペーンや、生理によって引き起こされる様々な不調に対しての社会的な理解とサポートを訴える施策など、生理に関連する作品は近年とても注目されており、数多く受賞している。

しかし、それらの施策は前提として生理に対する不平等を抱える女性に向けてつくられた施策であった。「CYCLE」は女性中心の生理ケア市場において、今まで排除されてきたトランスジェンダーやノンバイナリーの人々の公正な生理ケアのアクセスを叶える施策だ。

彼らが感じていた購入時の恥ずかしさやハードルを解消するために、いままで女性だけをターゲットにしていた生理ケア用品のコンセプトを抜本的に刷新。カテゴリーの慣習を打ち破る商品を発売した。

パッケージはミニマルでジェンダーニュートラル。生理ケア用品の常識であったフェミニンなメッセージやイメージは排除した。結果として、売り上げと寄付は37%増加し、同性愛が起訴されるイランやイラクなどの国々を含む95か国からの注文がくるなど、世界的な広がりをみせている。

真のDE&Iとインターセクショナリティの視点

インターセクショナリティとは、差別について考える時、男性と女性という区分だけでなく、人種や宗教、性的指向、障害など、ひとりひとりの持つ属性により、差別の構造は多層的で交差しているという考えだ。

DE&Iを目指すうえでも、人種×性別、障害×宗教など不平等・不公正の構造が多層的になっていることも少なくない。誰一人取り残さないというSDGsの基本理念にもあるように、これからは、まだ潜んでいる不平等・不公正に対してアプローチし社会に問いかける。そんなコミュニケーションが求められていくのではないだろうか。