プロシューマーのカギは「好奇心」と「生き様」

【対談】プロシューマーを巡る(1)

消費者が生産活動に参加する「プロシューマー」を軸に社会課題の解決に挑む起業家がいる。ジーンズの聖地・岡山県倉敷市で瀬戸内産デニムの販売や宿泊施設を運営するITONAMIの山脇耀平さんだ。服の価値を見直すため、コットンの種植えから服ができるまでの工程を楽しむプロジェクト「服のたね」を展開する。ブロックチェーンやAIなど最先端ICT技術を駆使してプロシューマーづくりを目指すIT企業Freewill(フリーウィル)の麻場俊行社長が話を聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

2015年に山脇耀平さん(右)は弟の島田舜介さんとデニムブランド「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げた。2020年10月26日に社名とロゴを「ITONAMI(イトナミ)」に変えた

麻場:山脇さんは「服のたね」を2018年に始めました。企画した経緯を教えてください。

山脇:この企画を考えたきっかけは、本当に大事な一着に出合うことが難しくなったと感じ始めたからです。

2022年の参加者は月額3300円を支払うことで、服ができるまでの過程を一緒に楽しめる。1年後には育てたコットンでできた製品が手に入る

大量生産消費の時代には何か特別な理由がないと購入したものを本当に大事にできないと思いました。それならば、一人ひとりが愛着のある服と出合える「きっかけ」を提供しようと考えたのです。

服のたねではメンバーは1年を通して、服の原料になるコットンを種から育てて、服ができるまでの工程を楽しみます。実際に工場を訪れてつくり手とも交流します。毎年、つくるものは変えています。Tシャツ、スウェット、靴下などその年で今年は何をつくるのか話し合って決める形です。

集まるメンバーの所属はさまざまです。ファッション業界の関係者や環境意識の高い人だけでなく、ファッションとはまったく違う業種の人も参加します。下は大学生から上は60代の方までいますが、共通しているのは、「仲間を求めていること」だと思います。

周囲にエシカルやサステナビリティについて話ができる人がいないので、そういう話ができる仲間がほしくて参加したという人が多いです。

2018年に始めたときは20人程度でしたが、いまでは100人弱が参加する規模になりました。5~6月が種植えの時期ですが、育て方についてチャットでアイデアを出し合いながら進めています。

麻場:土に触れながら、衣食住の「衣」から価値を考え直す点が素晴らしいですね。この企画で購入したものは「自分のモノ」として大切にすると思います。リピーターも多いですか。

プロシューマーづくりを目指すIT企業Freewillの麻場社長

山脇:いえ、実はリピーターはそこまで多くないのです。

麻場:そうなんですね。でも、メンバーは山脇さんやその仲間たちと交流することで、記憶にはしっかり残ると思います。そうするとITONAMIのファンになるし、瀬戸内地方の関係人口の増加にもつながります。

ところで、服のたねでつくる服の染料はどのようにしていますか。

山脇:天然染料を100%使っている訳ではないのですが、環境への負荷を抑えるために約50%は天然由来の染料を使っています。岡山は「ジーンズの聖地」なので、ぼくらの目指す服作りに共感してくれる同じ世代のつくり手たちが多くいます。服のたねのメンバーでそのつくり手に会いに行くツアーも企画しています。

麻場:日本の職人の技は本当に素晴らしいですよね。地方に行くと、その技術力だけでなく、循環型の取り組みに目を奪われます。あくまで裏方に徹しているので、あまり知られていませんが、実は世界のハイブランドは日本の職人技に頼っています。どんなことを意識して、会いに行く人を選んでいますか。

山脇:主にぼくたちと世代が近い30~40代の人が多いですね。家業として継いでいるが、現状の大量生産消費型の経済社会に危機感を持っている人です。

工場見学の様子、作り手の思いを直接聞く

毎回、工場をリサーチして目星を付けたところに問い合わせます。売上よりも服のたねの趣旨に共感して頂き、かつ、少量生産にも対応してくれる工場と協力関係を築いています。

麻場:これまでの話を聞いていると、服のたねは服を売っていますが、本質は「思い」を売っているプロジェクトですね。1着の服を手に入れるのに、1年掛けて、種から育てて、実際に工場にも足を運ぶ。その工程を長いと思う人もいると思いますが、大事なのは山脇さんたちの思いに共感することだと思います。

おそらく、この企画は今の時代だからこそ成り立つのでしょう。15年前では通用しなかったかもしれません。地球全体の共通目標としてSDGsがこれだけ広がったことで、大量生産消費を問題視して、「思い」に触れたいと思う人が増えてきたことが背景にあるはずです。

これからの課題は、プラットフォーム側もサステナブルな仕組みをどう作れるかです。そのためには、マーケティングが欠かせません。さらに、この企画に参加した消費者を巻き込んで、サステナブルなエコシステムをいかに機能させるのかも問われます。

ものづくり大国日本のつくり手の思いに触れることで、その人の生き様を通して、後継ぎ問題などにも触れてほしい。そういう情報を知ることで、手にした服は一生大切にするし、今後の活動を広めてくれる仲間になってくれるはずです。

山脇さんは「プロシューマー」をつくることで何を目指しますか。

山脇:服のたねをきっかけに何かを購入するときに、意思を持ってモノを選ぶようになってほしいです。世間の流行や周囲の意見に振り回されずに、自分の中で「理由」を持つようになってほしい。

製品が届いたときにメンバーから感謝の言葉をもらいます。ぼくたちだけでなく、関係する工場のつくり手にもその言葉を伝えるのですが、愛情に溢れたそのメッセージを見て感動する人の姿を見るとやりがいを感じます。

実は、これまで服のたねは一般から参加者を募っていましたが、今年から服飾専門学校の1年生が参加します。ただし、授業の一環だから、自主的な参加とは違います。将来のデザイナーやスタイリストの担い手たちにいかにして、楽しいと思わせることができるか、注目して見ています。

コットンの種を育てるのは意外と難しい。「服のたね」の参加者はチャットで相談し合う

麻場:より多くの若者に服のたねの本質を届けるには、正しいことを理解させようとするのではなく、彼ら彼女らの五感を刺激する体験を提供できればいいですね。

Z世代の情報リテラシーはかなり優れています。デジタルネイティブでもあるので、上の世代よりも吸収する情報量は膨大です。ただし、時代が変わっても、有効なアプローチの仕方が変わっても、「美しさ」や「かっこよさ」の本質的な定義は変わりません。

つまり、嘘をつかないコンテンツがカギです。そして、嘘をつかないコンテンツを作るには、ぶれない生き様が必要です。若者たちに、自分ごととしてとらえてもらうためには、その人が何を考え、何を感じて目の前の仕事に向き合ってきたのか、その「生き方」を届けることです。刺激を受けた若者の記憶に残り続け、いつか行動を起こすきっかけになるはずです。

山脇:今は想像する機会が奪われている気がします。ビジネスの場でも効率性を追求したが故に、不可逆的な分業になっています。だから、モノを買うときも完成品以外は意識しない傾向にあります。

考える必要がない時代になったとも言えますが、目の前のことに向き合う時間、もしくは遠くのことを想像する時間が失われているからこそ、それらと向き合うことは貴重な時間になると思っています。

Z世代はリテラシーが高く、うそは一瞬で見抜かれます。取り繕うことはしないで、等身大でぼくらの思いを届けようと思います。

麻場:山脇さんはプロシューマーをつくるための「カギ」は何だと考えていますか。

山脇:「ワクワクするか」という視点は常に意識しています。リアリティだけを伝えても限界があるので。自発的に参加したいと思える企画になっているか、客観的に分析しています。

繰り返しになりますが、子どもの頃はよいものを身に付けることで大人になれると思い込んでいました。大人になって、お金を出してそれらを手に入れましたが、自分のモノという感覚は持てませんでした。いくら手にしても満たされなかったのです。大切に思えなくて、結局は手放しました。

その経験からたどり着いたのは、自分で決めたことでしか本当の経験にはならないということです。そんな自分へのアンチテーゼとして、これからもこの活動を続けていきます。

麻場:ワクワク感や好奇心を追求することが、強力なコンテンツをつくる要素の一つです。その「好き」の中にはうそがないからです。押しつけがましい伝え方をしてほしい訳ではないですが、山脇さんたちのこの活動を通して、職人さんのストーリーをより多くの人に伝えてほしいです。

第一次産業の文化を支える職人さん、さらにはその職人さんの道具をつくる職人さんはもっと厳しい状況に立たされています。しつように表に出す必要はないと思いますが、日本のものづくりを持続可能にするためにしっかりとストーリーとしては残すべきだと思います。

そんなことを山脇さんたちには期待します。本日はありがとうございました。

山脇:こちらこそ、ありがとうございました。


「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」のお知らせ

Freewillは9月9日、東京・渋谷で「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」を開きます。テーマは、「Sustainable eco Society(循環経済の新たな概念)」です。会場となるTRUNK HOTELを貸し切り、エシカル・サステナブルをテーマにしたトークショーを開いたり、日本全国のエシカルな商品を展示したりします。商品はモバイルを通じてデジタル通貨(仮想通貨)を使用することで購入できます。

Freewillが実装した仮想通貨は、買い物使用するだけで森(*)が増える仕様です。購入体験を通じ、「買い物をするだけで森が増える」循環の仕組み、Sustainable eco Society(循環経済の新たな概念)を体感してもらう参加型のイベントです。

「五感で感じよう!100年先へ想い伝えるエシカル展」概要

日時:2022年9月9日 (金)9:30~21:00(予定)
会場:TRUNK HOTEL (バンケット全4会場)※一部オンライン配信、アーカイブ配信予定
チケット申し込み;https://tells-market.com/experiences/moff_2022
特設サイト:https://tells-market.com/moff_2022
対象:Z世代及びエシカル・サステナブルなライフスタイルに興味のある方
入場料:無料 (会場内一部有料コンテンツをご提供予定)
主催:Freewill
共催:オルタナ、moretrees、CIジャパン、エシカル就活、ニッポン手仕事図鑑、AISEC Japan、和える、マルシェ、ニコラ
後援:渋谷区、S-House ミュージアム、いかしあい隊、エッセンス、エシカル協会(予定)

「*森」は、あくまで代名詞であり、様々な地球課題解決や地域活性化に取り組むNPO・NGO・地方自治体・職人等の信頼のおける団体にお金が循環するイメージです。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #SDGs

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